Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Nov 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
28報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
QS(LasR, LuxR)ベースの相互抑制系(TetR, LuxI)を構成し、回路の双安定性を確認。ろ紙上に区切られた領域で、誘導因子の空間的な勾配をかけながら細胞を培養し、モルフォゲン勾配による初期発生における遺伝子発現制御が、二種類の遺伝子/誘導体だけで再構成出来る事を定量的に実証。(Bacteria: E.coli)
応用へのアプローチの仕方が良い。
細胞内mRNAを分解するエンドリボヌクレアーゼ(CasE)によって、リコンビナント回路を細胞内資源競争から分離するfeedforward回路を作成し、複数の哺乳類細胞株、プロモーターで定量的な効果を実証。(Mammalian cells: HEK293, HeLa, CHO, Vero)
Zhao labと同じmRNA分解による細胞内資源再分配だが、使用している回路の構成が違って面白い。こっちの方が数理モデルからの厳密な定量がされているっぽい?
E.coli(σ70)とB.subtilis(σB, σF, σW)のσファクター依存性プロモーターの配列-発現量ライブラリをランダム配列&FACSで取得し、CNNベースの配列-発現量予測器を作成。(Bacteria: E.coli)
酵母プロモーター予測器のE.coli版。
遺伝子上流のUTR(leader sequence)を編集する事で、8種類の発現レベルを下流CDSの影響を比較的受けずに実現し、強度の異なる3種類のプロモーターと組み合わせることで発現強度比0.001から1までの合計24種類の遺伝子カセットを開発。これを代謝経路の流量制御に応用して実用性を示した。(Bacteria: E.coli)
UTRの編集はアイデアとして他にもありそうだけど、どうだろう
TFベースの遺伝子回路において、一般的なHill式では回路の動態(特にbasal activityとsaturation)を表現し切れない事を示し、Hill式のリガンド濃度部分([Ligand]^nのところ)に活性化項を加えて拡張した。16種類の異なる回路について、ある程度のfitting精度を実証。(Bacteria: E.coli)
fitting出来ているものはあるけど、出来ていないものもちらほら。汎用モデルを立てるのはなかなか難しそう。
3種類の二量体化システム(cohesin-dockerinシステム、ロイシンジッパー、SunTagシステム)とVP16活性化因子を組み合わせたTF論理回路を哺乳類細胞で実装。(Mammalia cells: HEK293T, hMSC-TERT)
人工TFの作り方論文が哺乳類細胞まで来た。
TFの結合部位(オペレータやプロモータ)を過剰に設置すると、遺伝子回路のleaky発現を抑えられる事や、回路の出力のノイズが大幅に減少する事を発見。(Bacteria: E.coli)
何で今まで誰もやらなかったのかが疑問なレベルのシンプルな発想ながら、強力な結果。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
mRNAのポリAシグナル修飾を立体的阻害するようなriboswitch(アプタマー)を遺伝子の3'UTRに付加する事で、リガンド存在下でポリAシグナルが二次構造のステムに閉じ込められ、翻訳が抑制される機構を開発。さらにmiRNAを導入してスイッチ性能を向上。(Mammalian cells: HeLa)
ポリAシグナルの阻害とはその手があったか。3'UTRのリボスイッチの可能性も広げる。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
cell-freeでのタンパク質発現系をマイクロ流路で区切られたハイドロゲル(alginate)内部の環境に最適化(高T7-RNApol濃度、低プラスミド濃度、)し、低コストで効率よく発現できる系を実装。(bacterial cell-free)
ファージのcI、croタンパクによる双安定系回路を、キャピラリーで区切られた空間でcell-free発現させ、遺伝子量や温度による定常状態の遷移を実現。(bacterial cell-free)
キャピラリーで区切っただけで膜のない空間をartificial cellと呼ぶのかは疑問。
細胞生育とタンパク質発現を分離する手法を応用して、非天然アミノ酸を含むタンパク質発現量を飛躍的に向上。(Bacteria: E.coli)
非天然アミノ酸もいよいよ現実的なタンパク質デザインが出て来そう。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
  • Optogenetic Control of the BMP Signaling Pathway
  • Authors: P.A. Humphreys, S. Woods, C.A. Smith, N. Bates, S.A. Cain, R. Lucas & S.J. Kimber
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00315
  • Institution: The University of Manchester, UK
二量体形成を行うLOVドメインにBMPR1BとBMPR2を結合させたopto-BMPを作成し、青色光誘導型のBMPシグナル制御を実現。(Mammalian cells: HEK293T, TC28a2, hESCs)
characterization(fig2)が丁寧で良い。
タグ(STEPtag)を付けたタンパク質の発現量を高速で蛍光観察可能なバイオセンサー(Kd 120 nM, kon 1.7 × 105 M−1 s−1)を作成。
リアルタイム観察が出来るような応答の速さがポイント高いらしい。

Protein Engineering

タンパク質工学
トリプトファン合成酵素をターゲットに、現実的な時間内(1ヶ月程度)の研究室内進化で酵素のorthologを複数得られる事を実証。連続的なdirected evolutionが可能なOrthoRepのプラットフォームを使用。(Yeast: S.cerevisiae)
eVOLVERでやったらもっと簡単に実現できそう。continuous directed evolutionやりたい。
立体構造が明らかなタンパク質の各残基周辺の原子情報(C, N, O, P, H)と環境情報(電荷、溶媒)を3D CNNにかけて、周辺情報から各残基の予測を行う事で、各残基の変異耐性を予測するモデルを構築した(予測精度が高ければ、その残基が周辺情報と蜜に関連しているという仮説)。3種類のタンパク質(secBFP2.1, phosphomannose isomerase, TEM-1 β-lactamase )対して予測を行い、得られたスコアごとにsaturation mutagenesisをかけると、変異耐性スコアの低かった残基において、より多くの機能獲得性変異が起こる事が実証された。(Bacteria: E.coli)
周辺情報からの残基の予測でそんなに上手く行くとは、モデルの訓練で機能に関しての情報は与えていないけど。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
重炭素ラベルしたメタノール栄養培地によって天然のS.cerevisiaeがメタノール同化能を持つことを発見し、メタノール培地における約20日間の研究室内進化によってメタノール同化経路を改善。(Yeasts: S.cerevisiae)
E.coliゲノムスケールでの代謝経路モデリングから、熱力学的な反応の進みやすさの評価によって候補経路(Gnd-Entner-Doudroff cycle)を同定し、E.coli内の内在酵素のみを使用した炭素固定回路を作成。(Bacteria: E.coli)
タイトルがかっこいい、内容もタイトルに劣らずかっこいい。
E.coliのwhole-cell catalystにおけるアセトアルデヒドからのアセトン産生と、アセトンからligustrazine(医薬、食品で使われるアルカロイド)への化学合成を組み合わせた効率の良いligustrazine産生法を確立。(Bacteria: E.coli)
目的の代謝gene cluster探索の為に、既知の代謝gene cluster(NpHphB/CD/A)をBLASTにかけて候補を抽出した後、既知の代謝gene clusterの近傍にあることが知られている遺伝子群(NRPS: nonribosomal protein synthetase)の情報を元に、近傍遺伝子が多いものを最終的な候補として選択。その後、wetで候補のクラスターを評価。(Bacteria: E.coli)
代謝工学もin silicoで色々出てきて面白い。
RNAシーケンス結果からのオミクス解析と、S.cerevisiaeでのハイスループットスクリーニングにより、pinocembrin誘導体を作成する複数の酵素を同定。(Yeasts: S.cerevisiae)
こちらもin silicoでのRNA-seqデータのマイニング。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
DNAを用いた物理的暗号を実用化するものとして、DNA配列をデザインし、nanoporeを使って読み取る機構を開発。バーコード配列部分を研究室内進化によって、nanoporeで読み取った際の分散が大きくなるような(識別しやすくなるような)傾斜をかけた。(in vitro)
バーコード配列を進化させるという発想が初耳で面白かった。
64塩基長のランダムDNA配列生成において、合成バイアス(1. G(30-35%),T(25-30%)の出現確率がA,C(~20%)よりも高い。2. A,Cは座標に関わらず比較的一定の出現確率を持つが、Gは3'側ほど出現確率が低く(35%->30%)、Tは3'側ほど高い(25%->30%)。3. 2merについても出現確率が他の2merよりも顕著に高いor低いものがみつかった。)を定量的に解析。DNAを用いたランダム暗号生成技術への橋渡しとして、合成バイアスを取り除いて圧縮する(von Neumann algorithm)事を提案。(in vitro)
思ったよりバイアス大きくて驚き。
  • Complex multicomponent patterns rendered on a 3D DNA-barrel pegboard
  • Authors: S.F.J. Wickham, A. Auer, J. Min, N. Ponnuswamy, J.B. Woehrstein, F. Schueder, M.T. Strauss, J. Schnitzbauer, B. Nathwani, Z. Zhao, S.D. Perrault, J. Hahn, S. Lee, M.M. Bastings, S.W. Helmig, A.L. Kodal, P. Yin, R. Jungmann & W.M. Shih
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s41467-020-18910-x
  • Institution: Harvard University, USA
100MDaまで拡張が可能なDNA折り紙による規則的なバレル構造を構築。(in vitro)
でかい、すごい。
非天然の核酸であるTNA(α-L-threofuranosyl nucleic acid)をDNAの代わりにして、情報を保存する媒体として利用可能に。
非天然核酸だから酵素の分解なんかにも強いということらしい。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
活性酸素群の細胞毒性に着目し、NADPH酸化経路阻害株を作成。オキシゲナーゼ活性を持つような変異酵素(応用例としてBM3)をシンプルなdirected evolutionによって得られる事を実証。(Bacteria: E.coli)
directed evolutionのために株ごと作るという発想の転換。株そのものの汎用性は低いけど、アイデアは他に活かせそう。

Bioinformatics

マイクロ流路中の液滴でdirected evolutionを回しながら、Nanoporeシーケンシングを行えるようにDNAバーコードを仕込んだカセットをデザインし、大規模なシーケンシングを可能にし、デアミナーゼの進化で実証した。
デミナーゼの進化についてデータベースも公開されているので、in silicoツール制作に使える。