Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Jun 2022)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
dCas9やdCpf1とTFを用いた転写調節において、SunTag(scFV/GCN4)やSpyTag/SpyCatcherなどの凝集システムを組み合わせる事で転写活性のON/OFF比を増大させた。また、dCas9とdCpf1とを個別に用いる事でで直交性を保った転写制御が可能だった。
パーツが増えてくると細胞の代謝負荷がどれくらいなのか気になる。
制御理論におけるPIコントローラーを哺乳類細胞(HEK293T)内の遺伝子回路で実装した。tTAの発現を中心として、I制御部分ではtTA自身のmRNAへのアンチセンス鎖発現促進によるネガティブフィードバックを利用した。P制御ではI制御よりも早いネガティブフィードバックを形成するため、tTAとL7Aeを同時に発現(P2Aで接続)させ、L7Aeに自身のmRNAを抑制させた。また、miRFPを異なる強度のプロモーターで発現させ、細胞内の代謝負荷に対するロバスト性も実証した。
とんでもない量の最適化をしていそう。シンプルにすごい。
E.coliのRBSデザインにおいて、ガウス過程回帰(獲得関数にはUCBを使用)を用いて450サンプルのみのwet実験で翻訳開始速度を34%向上した。
最大値は向上しているが集団としてはもう少しラウンド数が必要そう。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
dCas9のsgRNAを含んだRNA折り紙の各部にMS2やPP7結合アプタマーを配置し、転写を調節するシステムを実装した。アプタマーの種類、数(1-4個)、配置によって転写誘導の強度が変化した。
RNA折り紙を使ったツール最近よく見る。
ランダムなライブラリからDNAの鏡面異性体アプタマーを選定、進化させるスクリーニング手法を開発した。L-DNA合成酵素(D-Dpo4-5m)とPAGEによるシーケンシングが手法の要。ヒトthrombinを対象に二段階の選定から得たアプタマーは同じ配列のL体と比べて血清やDNaseなる対して耐性を持った。
イデアも結果もかなり面白い。結構な数のPAGEシーケンシングで大変そう。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
4文字コドン(UAGN, AGGN)を利用した非天然アミノ酸(Nε-(tert-butyloxycarbonyl)-L-lysine, K-alkyne, K-alkene)発現において、4文字コドン周辺の-3から+10配列を最適化する事で発現効率を大きく向上させた。通常のmRNAと比較して、UAGAでは48%、AGGAでは98%の発現量を達成した。
対応するtRNAやaaRS次第で可能性が広がりそうで面白い。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
粘性タンパクであるMfp3(mussel foot protein 3)に、RRGドメインのリピート配列を付加する事で相分離液滴を作成し、液滴に対して二次的に制御を加える方法を実装した。親水性クロロフィルであるWSCPは赤色光を吸収して一重項酸素を生成する作用を持ち、WSCPを添加すると赤色光照射によって液滴内のMfp3が架橋されて液性が固化した。Mfp3-RRGは細胞(HEK293T)内でも液滴を形成し、WSCPと赤色光照射によって固化した。vitroで光ピンセットを用いることで、液滴一粒の固化も可能だった。また、Niを添加することで、遊離のHisタグ-タンパク(GFP, Caspase3)を液滴内にトラップすることが出来、WSCPと赤色光照射で液滴を固化する事で、Caspase3の基質が液滴に入り込むのを防ぐ事が出来た。
色々なシステムの実装をしていて盛り沢山だった。
E.coli において青色光誘導型のCreリコンビナーゼを用いて、抗生物質(kanamycin, carbenicillin, chloramphenicol, tetracycline)耐性をONにするシステムを実装した。
オプトジェネティックな制御を厳密にしたい場合は有効そう。でも代謝荷重を考えると抗生物質自体を光ケージで修飾する様な方が(あれば)使い勝手は良いのかも。

Protein Engineering

タンパク質工学
  • BacPROTACs mediate targeted protein degradation in bacteria
  • Authors: Morreale, Francesca E; Kleine, Stefan; Leodolter, Julia; Junker, Sabryna; Hoi, David M; Ovchinnikov, Stepan; Okun, Anastasia; Kley, Juliane; Kurzbauer, Robert; Junk, Lukas; Guha, Somraj; Podlesainski, David; Kazmaier, Uli; Boehmelt, Guido; Weinstabl, Harald; Rumpel, Klaus; Schmiedel, Volker M; Hartl, Markus; Haselbach, David; Meinhart, Anton; Kaiser, Markus; Clausen, Tim
  • Journal: Cell
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1016/j.cell.2022.05.009
  • Institution: Reseaarch Institute of Molecular Pathology, Austria
B. subtilisのプロテアーゼであるClpCと分解ターゲットとなるタンパク質に結合し、ClpC/ClpPのオリゴマー形成とそれに伴うタンパク質分解を誘導する化合物BacPROTACを開発した。BacPROTAC-1はClpCに結合するpArgと分解ターゲットに結合するbiotinを繋いだ構造を持つ。各部を別の構造に置き換える事で、MycobacteriaのClpC1を対象にしたBacPROTAC-2~5も作成する事が出来た。
化学的なデザイン部分は良くわからないが、手順が面白かった。
二次構造を取るペプチドのブロックをIDRリンカーで接続し、細胞内でゲル状に凝集するシステムを実装した。4つのヘリックスからなり逆並行配置で自己組織化するペプチド(4HB: 4-helix bundle)と、5つのヘリックスからなり並行配置で自己組織化するペプチド(5HB: 5-helix bundle)とを使用した。E.coliでペプチドは極に凝集し、各パーツの配置によって凝集の様子が変化した。また、細胞質分裂を止めた変異体で凝集スポットが定間隔で観測されたことから、極への凝集は核様体に押し退けられて(nucleoid occlusion)起きている事が示唆された。
現象自体も面白かったし、細胞内反応の場を人工的に作れそう。
標的のペプチド(FusA)を切断して成熟させる機能を持つが構造未知のタンパク質:FusB2について、Lys置換によって機能に重要な残基を特定しつつ、AlphaFold2を用いた構造予測を組み合わせることで活性部位を特定した。
AF2の予測構造で十分な証拠として認められる様になってすごい。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
DNA折り紙において、二重鎖の副溝に結合してエンドヌクレアーゼを阻害する薬剤の利用法を開発した。薬剤添加により、DNA折り紙が壊れやすいマウス培養液中での構造の生存時間が3hから12hに伸びた他、単離のDNase I, IIに対して耐性を示した。また、既存手法であるHIV抗原付加と同時に使用可能で、B細胞への毒性も低かった。
光による異性化反応を利用して回転運動を起こすような化合物を開発し、回転運動によって細胞膜に侵入する抗生物質を実装した。
原子力顕微鏡で視認できる構造を取る3種類のDNA折り紙(ノード)とfranking regionのハイブリダイゼーション(エッジ)を利用して、グラフ理論における3色問題のwetでのシミュレーションを行なった。
グラフを作る発想は見た事がなかったので面白かったし、相性が良さそう。大規模にするには直交性の確保が大変そうではある。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
非モデル生物の酵母Komagataella phaffiiにおいて、ゲノム変異スクリーニングで同定した変異を組み合わせた後に、方向性進化をかける事でリコンビナントタンパク質(anti-lysozyme scFv)の分泌量を大きく向上させた。
形質転換/ゲノム編集周りの難しさが解決できれば、手広くスクリーニングが進みそう。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
  • Generative aptamer discovery using RaptGen
  • Authors: Iwano, Natsuki; Adachi, Tatsuo; Aoki, Kazuteru; Nakamura, Yoshikazu; Hamada, Michiaki
  • Journal: Nature Computational Science
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s43588-022-00249-6
  • Institution: Waseda University, Japan
VAEのデコーダにpHMMを用いて、アプタマーを対象にしたSELEXデータの学習を行った結果、デコーダにpHMMを使用した事で部分列の特徴の分離が進んだ。実データへの応用として2次元の潜在空間に対してGMMを適用して配列生成を行なった。また、潜在空間におけるGMMのベイズ最適化を行い、実験的評価をするべき配列の提案をすると、結合性能の高い配列を効率良く同定できた。
Fungiのエフェクタータンパク質分類を解くに当たって、事前学習済みの言語モデル(BiLSTM, SSA, UniRep)から得られた潜在表現ベクトルをターゲットにGANを訓練してデータの水増しに利用した。
表現学習を広く使えそうな手法で面白い。
タンパク質の特徴(溶媒アクセシビリティ、二次構造、構造変性、バックボーンのdihedral angle)を予測するツールNetSurfP(web server + standalone)の高速化を行なった。従来のアルゴリズムで特徴抽出のためにMSAを計算していた部分を、事前学習済みのタンパク質BERT(ESM-1b)に置き換えた事で同等の精度を保ちつつ600倍ほどの高速化に成功した。
LSTM+RNNやVAEを用いて化合物の生成タスク(LogPスコア分布、複数モダリティを含むデータ、巨大な化合物のみのデータ)を解き、生成された化合物の特徴と訓練データとの類似度合いを比較した。LSTM+RNNモデルはいずれのデータでも訓練データ中の分布を種々の評価指標で良く捉えた。
評価が難しそうだが、大まかなアイデアとしては核酸やタンパク質でも出来るかも?巨大な化合物タスクが難しいかもしれないがBERTや事前学習済みモデルについても比較があれば面白そう。
タンパク質の相分離性の予測において、自己組織化による相分離タンパクと相互作用による相分離タンパクとをそれぞれ予測するモデルをXGboostで作成した。それぞれの相分離タイプと非相分離タンパク群との間で、データベースから抽出した各種の特徴量について検定を行い、学習に使用する特徴量を選別した。学習後、特にスコアの高かった相互作用型のタンパク質(DHX9, Ki-67, NIFK)について、vitroで実験(FRAP解析)を行うといずれも凝集性を示した。
特徴抽出の選別から実証実験まで丁寧にされていて良かった。

Deep Learning

深層学習を使ったバイオインフォ系のタスク
タンパク質に結合する薬剤ペプチドの開発において、配列ベースのPPI予測モデルの応用性を比較した。抽出したアミノ酸配列の特徴量+SkipGramの埋め込みをCNNで学習したモデル(PIPR)、事前学習したBiLSTMによる配列表現をCNNで学習したモデル(D-SCRIPT)、データベース中のタンパク/ペプチドにおける部分配列の類似度から結合性を予測するアルゴリズム(SPRINT)を比較した。データベース中のタンパク質の内、ターゲットに対する特異性の高さに注目してモデルを比較するとSPRINTが最も精度が良かった。
工学的に実験が必要な配列を提案する視点でのモデル比較は面白かった。一方で、AF2登場以降は配列ベースの予測に限定する必要がないように思った。
QSタンパクのデータベースから作成したML分類モデル等を元に、ヒト腸内細菌叢で機能し得るQSシステムを提案した。また、これらの結果をQSデータベースとして公開した。
実験でどのくらい確度が補完されるか期待。
タンパク質のアレルゲン性を予測するウェブサーバーツールを開発した。入力アミノ酸配列に対して、BLASTPによるエピトープ探索、ローカルアラインメント、6mer探索を行い、アレルゲン性を判定する。
BLASTPのエピトープ類似度探索を3D構造の比較とするのはどうなのか、よく分からなかった。

Biology in general

ColE1タンパクを用いてE.coliの選別を行うにあたって、ColE1産生細胞の溶出液を精製せずに使える安価なプロトコルを開発した。
lysateとはいえ細胞を混ぜるのは気持ち的に怖いなと感じてしまった。
転写因子上流にTALEの認識領域を配置すると、TALEが転写発現を増幅させる事が分かった。TALEでは認識配列や対象の転写因子に関わらず同様の作用が見られたが、他のDNA結合因子(Gal4, dCas9, zinc finger)では発現量増幅は起こらなかった。TALEの認識配列を逆相補配列にした場合でも増幅作用があった他、リプレッサーの効果も増幅する事が分かった事から、転写因子の結合領域探索を促進している可能性が示唆された。
新たな作用が明らかとなる面白い結果だった。どの様なメカニズムか実証されるのを期待。