Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Jun 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
32報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
CRISPRiを制御因子に用いた種々の遺伝子回路(トグルスイッチ、フィードフォワード回路、振動回路)を実装。(Bacteria: E.coli)
古典的な転写抑制ではなく、CRISPRiがゲノム中でPAM配列探索を行うことによる実質的な酵素濃度の枯渇が抑制因子として機能している可能性があるとのこと。PAM配列編集とゲノム中の塩基の偏りを利用した抑制制御への可能性。
連続的directed evolutionを用いて、λファージのTFであるCroタンパクにアクティベーターとリプレッサーの両方の機能を持たせる事に成功し、最小のデュアル(活性抑制)TFを作成。(Bacteria: E.coli)
  • CRISPR artificial splicing factors Menghan
  • Authors: M. Du, N. Jillette, J.J. Zhu, S. Li & A.W. Cheng
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s41467-020-16806-4
  • Institution: The Jackson Laboratory for Genomic Medicine, USA
スプライシング因子(RBFOX1, RBM38)のRNA配列認識ドメインをdCas(dCasRx)で置き換えることで、配列特異的なスプライシング制御を実装。複数の配列をターゲットにしたpre-gRNAを導入することで同時に制御することも可能。(Mammalian cells: HEK293T)
dCas9またはsgRNAのプロモーターをLuxRで制御することで、Luxシステムを用いたCRISPRi制御機構を開発。プラスミド複製起点をdCas9のターゲットにして、細菌集団の制御を実装。(Bacteria: E.coli, P.putida)
バクテリアの二成分制御系(TCS)を哺乳細胞で再利用。ヒスチジンキナーゼのキナーゼドメインとnanobodyとの融合タンパクが、nanobodyのリガンドへの結合による二量体化とキナーゼ活性化を行い、活性化されたキナーゼがバクテリア由来の制御因子へリン酸基を転移することで制御因子を活性化。(Mammalian cells: HEK293T, HeLa, hMSC-TERT, hiPSC)

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
アプタマーにRNAもしくはssDNAから成るモチーフを組み込むことで、酸性条件下または塩基性条件下で特定の二次構造を取るよう制御を実現。(in vitro)
テトラサイクリン誘導性のONリボスイッチK12をAAVベクターに組み込むことで、生体マウスにおける可逆的で繰り返し誘導可能な遺伝子発現制御を実現。(Mammalian cells: HEK293T, HepG2: Mammals; C57Bl/6(mice))
真核生物のTPP(thiamine pyrophosphate)リボスイッチCrTHI4において構造・機能的に重要な配列部分を同定し、また、CrTHI4のアプタマー配列を他のTPPリボスイッチのアプタマー配列と挿げ替えることで構造/機能を保ったまま基質特異性を変化させることに成功。(Eukaryotes: Chlamydomonas strain UVM4)

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
cell lysateを用いた無細胞系タンパク発現において、lysateをつくる細胞株で種々の翻訳ファクターおよびアミノアシルtRNA合成酵素を過剰発現させることで、lysate中のプロテオームの発現量が平均的に減少し、無細胞系でのタンパク発現量を上昇させることに成功。(E.coli cell-free)

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
イカの細胞で光透過率を減少させるはたらきを持っているタンパク質(reflectin )を、HEK293Tで発現させ細胞の光透過率を低減することに成功。(Mammalian cells: HEK293T)
細胞の光学的特性を変化させる面白い試み。
  • Restoring light sensitivity using tunable near-infrared sensors
  • Authors: D. Nelidova, R.K. Morikawa, C.S. Cowan, Z. Raics, D. Goldblum, H.P.N. Scholl, T. Szikra, A. Szabo, D. Hillier & B. Roska
  • Journal: Science
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1126/science.aaz5887
  • Institution: Institute of Molecular and Clinical Ophthalmology Basel, Switzerland
近赤外光(~900nm)に共鳴して発熱する金のナノロッドと、温度感受性の電位発生チャネル(rTRPV1 or sTRPA1)とを組み合わせることで、近赤外光を利用した細胞膜電位の制御およびマウスの行動制御を実現。(Mammalian cells: HEK293T; Mammals: Pde6b{rd1} mice)
光反応性の脱離基を付加したグアニン(不活性状態ではG-Cペアを作れない)をリボザイムに導入し、smFRET(biotin-Sa5-Cy5)を用いて、リボザイムの活性状態を高い時空間分解能で可視化。(in vitro)
E.coliのSSBs(single-stranded DNA-binding proteins)において、適切な蛍光タンパク(GFP, mCherry, mTurquoise2)の挿入位置をトランスポゾンの挿入位置情報から模索し、機能を保ったままの蛍光レポーターを作成。(Bacteria: E.coli)

Protein Engineering

タンパク質工学
自然界に存在する分離型インテイン(VidaL-N and VidaL-C)の構造的特徴を分析し、哺乳類細胞内で分離型インテインを用いた翻訳後ヒストン修飾を実現。(in vitro; Mammalian cells: HEK293T)
リコンビナントタンパクを高エラーDNAポリメラーゼで複製する事で遺伝的多様性を増加させるシステム(OrthoRep)と、培養液ODをリアルタイムで測定することによる物理的な系統選別システム(eVOLVER)とを組み合わせた連続的directed evolution リコンビナントタンパクを高エラーDNAポリメラーゼで複製する事で遺伝的多様性を増加させるシステム(OrthoRep)と、培養液ODをリアルタイムで測定することによる物理的な系統選別システム(eVOLVER)とを組み合わせた連続的directed evolution. (Yeasts: S.cerevisiae)
ODの代わりに蛍光測定を用いれば、成育に関わる遺伝子以外にも蛍光タンパク、アプタマー、遺伝子発現/翻訳調節タンパクあたりは進化させられそう。
グルコースヒドロゲナーゼの機能をカルモジューリン/カルモジューリン結合タンパクを介してアロステリックに調節する人工タンパクを開発。(in vitro, Bacteria: E.coli)

CRISPR/Cas

クリスパー系
ヒト多能性幹細胞(hPSCs)に、小分子によって誘導されるCas9ベースのorthogonalなキルスイッチを導入することで、未分化細胞の選択的除去と全細胞除去を制御可能に。(Mammalian cells: hPSC)
  • Very fast CRISPR on demand
  • Authors: Y. Liu, R.S. Zou, S. He, Y. Nihongaki, X. Li, S. Razavi, B. Wu & T. Ha
  • Journal: Science
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1126/science.aay8204
  • Institution: Johns Hopkins University, USA
Cas9のDNAへの結合の一部をgRNA上でブロック(光照射によって離脱する分子を利用)し、光照射によって二本鎖切断反応の時空間的に高解像度(µm以下、secスケール)な制御を実装。(Mammalian cells: HEK293T)

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
E.coliで連続的な代謝を行う酵素araAとaraBについて、互いの発現がどのように関わり合っているかを定量的に解析し、得られた結果を元にr2>0.97のフィッティングでモデル化。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
リポソーム膜上にミトコンドリアの好気呼吸複合体(NADHの酸化による電子調達とH+の流入)、AOXオキシダーゼ(酸素の還元)、ATP合成酵素を配置し、NADHをエネルギー源にATPを合成する系を再構成。(in vitro)
ピロリジンtRNA/RSをベースに触媒部分をHis, Phe, Alaなどに置き換えることでorthogonalなtRNA/RSを導入することに成功した他、複数の非天然アミノ酸(Trp誘導体, Phe誘導体など)の導入も可能に。(Bacteria: E.coli, Mammalian cells: HEK293T)

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
各辺に粘着末端を持つY字型のDNA2次構造(3本のDNAから成る)の溶液中で、温度依存(~62℃)で可逆的にコントロール可能なDNA液滴を形成することに成功。また、複数種類のY字型DNAや星型DNAを混ぜ合わせることで、異なる種類の液滴の共存、液滴の融合、分離、特定の分子の選択的な包摂を再現。

Bioinformatics

多層パーセプトロンを用いた超解像度顕微鏡画像データのオープンソースclassifierを開発。
既知のグリシンレセプターについて、立体構造とリガンド情報(対応するリガンドの結合部位、それらの情報から予測される潜在的なリガンド結合部位)をまとめたライブラリを作成。
潜在的な薬剤の発見を目的とした化合物のハイスループットスクリーニング手法における、データ品質のコントロールを複数の評価基準(古典的なQCパラメータZ’やSSMD、結果のばらつき度合いの統計的評価など)により厳密に実装。
RNA修飾データベース(H. Sapiens, M. mucus, S. cerevisiae)から、複数の修飾(m6A, m5C, m1A, ψ, A-to-I)をまとめて扱えるような特徴抽出を行い、XGboostによりRNA修飾座位の予測を実装。

General Biology / Biotechnology

  • Barcoded microbial system for high-resolution object provenance
  • Authors: J. Qian, Z. Lu, C.P. Mancuso, H.-Y. Jhuang, R.C. Barajas-Ornelas, S.A. Boswell, F.H. Ramírez-Guadiana, V. Jones, A. Sonti, K. Sedlack, L. Artzi, G. Jung, M. Arammash, M.E. Pettit, M. Melfi, L. Lyon, S.V. Owen, M. Baym, A.S. Khalil, P.A. Silver, D.Z. Rudner & M. Springer
  • Journal: Science
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1126/science.aba5584
  • Institution: Harvard Medical School, USA
DNAバーコーディングと環境で生育できないよう遺伝的にデザインされたB.subtilisとS.cerevisiaeの胞子と、バーコードを読み取るための遺伝子増幅およびシークエンシング手法を用いて、特定のエリアから外部へ運ばれた物体や足跡を約1時間でトレーシングできる技術を開発。
  • The ribotoxin α-sarcin can cleave the sarcin/ricin loop on late 60S pre-ribosomes
  • Authors: M. Olombrada, C. Pena, O. Rodrıguez-Galan, P. Klingauf-Nerurkar, D. Portugal-Calisto, M. Oborska-Oplova, M. Altvater, J.G. Gavilanes, A. Martınez-del-Pozo, J. de la Cruz, L. Garcıa-Ortega & V.G. Panse
  • Journal: Nucleic Acids Research
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1093/nar/gkaa315
  • Institution: Universidad Complutense de Madrid, Spain
リボヌクレアーゼの一種α-sarcinの分解作用が25S rRNAを含む成熟後期の60Sリボソームに対して選択的にはたらくことを解明。
マイクロアレイ上でのDNA断片合成、次世代seq、Sniperクローニング(次世代seqで配列を確認したDNAをPCR)を組み合わせ、無細胞系反応のみでファージゲノムを再構成することに成功。
DNA watermarking技術(人工的に導入する遺伝子にSNPsを加えることで、PCRを介して元の遺伝子との識別を可能にする)における効率的かつ転写や翻訳に影響を与えないSNPsのデザインを実装。(Yeast: S.cerevisiae)