Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Oct 2022)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。12報。

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
E.coliで開発されたsplit T7ポリメラーゼをS.cerevisiaeに導入しポリメラーゼとdCas9アクティベーターから成るANDゲートを実装した。また、直交性を持つ二種類のT7ポリメラーゼ変異体(cgg, PM)を用いてNOR/ORゲートを実装した。実装段階ではGalactose応答性のTF(Gal1)と銅イオン応答性のTF(CU1)を用いていたが、青色光応答性の人工TFにCRY2とCIB1-VP16を用いても回路設計が可能であり、T7ベースの回路のモジュール性を示した。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
細胞透過性ペプチド(PepI, penetratin)を用いてタンパク質を人工脂質膜(GUV)内に運搬する技術を開発し、GUV中の生化学反応を制御することを可能にした。GUVに用いる脂質の種類(DOPC, DOPG)や比率の調整後、応用例としてDNaseIによる分解反応とStreptavidin添加によるアクチンネットワーク形成の誘導を実証した。
細胞透過ペプチド以外にも細胞膜と物理的に相互作用する機能をGUVで試せそう。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
光応答性のタンパク質核外輸送ツール(LEXY)について、局在制御に関わる変異体の哺乳類細胞でのキャラクタリゼーションを行なった。LEXYは青色光受容体(AsLOV2)と核内/核外輸送シグナルから成り、LOVドメイン部分の変異によって光照射時だけでなく暗条件下でも細胞質局在の割合が上昇した。
定常状態の局在度合いについては、輸送シグナルの配列組成でも制御出来そう。

Protein Engineering

タンパク質工学
  • De novo design of immunoglobulin-like domains
  • Authors: Chidyausiku, Tamuka M; Mendes, Soraia R; Klima, Jason C; Nadal, Marta; Eckhard, Ulrich; Roel-Touris, Jorge; Houliston, Scott; Guevara, Tibisay; Haddox, Hugh K; Moyer, Adam; Arrowsmith, Cheryl H; Gomis-R{\u}th, F Xavier; Baker, David; Marcos, Enrique
  • Journal: Nature communications
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41467-022-33004-6
  • Institution: University of Washington, USA
Ig様の構造をde novoデザインして、機能および構造について実験による実証を行った。Igにおいては2つのクロスβシートが折り畳みの律速となる事から、取り得る16種類(各クロスβ: 4^2)のモチーフについてRosettaのfolding simulationにより構造の制約を検証した。同定した制約条件を元にRosettaの構造サンプリング、配列デザインを行い、構造予測(RosettaFold, AlphaFold)が正しく行われた31デザインを実証実験に回した。E.coliで発現させた各配列の精製を行い、8つのデザインで親水性と単分散性が、内7つで熱安定性(Tm>90℃)が確認された。
職人芸っぽい

CRISPR/Cas

クリスパー系
Cas12aの活性のリードアウトにG4を形成して蛍光プローブと結合するDNAzymeを用いて、配列検出系を作成した。標的の配列と複合体形成したCas12aがG4 DNAzymeの補鎖となるブロッカーDNAを切断する事で、DNAzymeが蛍光を示す仕組み。化学的に蛍光DNAプローブを用いる検出系と比較して培養細胞で5倍の感度を達成し、生体マウスでは2週間近く早い段階での感染検出が可能となった。
G4部分が配列レベルで調整されていて面白かった。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
オリゴマーとしてキャプシド構造体を形成するencapsulinに非特異的なDNA結合性ペプチド(E.coliのDpsタンパク質N末端配列)を遺伝的に接続し、RNA配列を取り込むキャプシドを作成した。異なる大きさのキャプシドを形成する3種類のencapsulin (TmT1, MxT3, QtT4)についてRNA内包変異体を作成し、キャプシドが内部のRNA配列をヌクレアーゼから保護することが出来ることを示した。MxT3について、特異的に結合するペプチドを付加したGFPを同時に発現させ、GFPRNAを共にキャプシド内に取り込むことが出来た。
オリゴマー形成自体を誘導可能な形にしたり出来ると、ヌクレアーゼに頑健な反応場を可逆的に制御できたりして面白そう。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
ヒト細胞(HEK293)を用いて、感染性のアデノ様ウイルス(AAV)を安定的に発現可能な系統株を作成した。AAVゲノム、複製起点、キャプシド遺伝子群とをそれぞれ別々のプラスミドに載せ、異なるプロモーターで制御する事で、AAVの生成量を調整可能にした。古典的な形質転換と比較すると感染効率は低い結果となったが、安定発現系によるスケール可能性を示した。
プロモーターやプラスミドの配列レベルでの設計や、長期の安定発現可能性など、色々改善出来そう。
Split蛍光タンパク質(mVenus)を媒介として、植物細胞内での葉緑体の凝集システムを実装した。βシート2枚を除去したmVenusと、除去したβシート部分とをそれぞれ別のプラスミドに載せて発現させる、プラスミドの混合比率を変える事で凝集度合いを変化させることができた。
植物細胞での発現難易度が分からないが、E.coli等で使われる誘導性のヘテロ結合ツールも応用出来そう。split-mVenusだとツールとしては凝集が起きないと観察ができなくなってしまうのが扱いづらい気がした。
種々の細菌をHeLa細胞の細胞質に物理的に注入する実験から、E.coliがHeLa細胞内部で生育可能な事を示した。元のK-12(ΔtyrA)株は生育速度が早過ぎて1-2時間でホストの細胞死を招いてしまったが、アミノ酸要求条件を更に厳しくする事で生育速度を下げると、最大6時間ほどまで寄生を続けさせることができた。
発想はシンプルだが面白かった。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
データベース中の機能未知遺伝子にを対象に、word2vecによる潜在表現を用いて遺伝子の機能予測を行なった。NCBIとEBI上の遺伝子に対して配列を元にクラスタリングするとKEGGアノテーションが利用可能な遺伝子ファミリーは全体の20%となった。機能未知遺伝子に対して、word2vec+MLP(4層)で学習したモデルを使って機能予測を行なった。
予測の域を出ないので実証が難しそう。データベースの古いバージョンの情報で訓練したモデルで最近のアノテーションが予測できる、的な事が出来れば検証にはなるかも?
事前学習済みBERTとrecurrent geometry network(RGN)を組み合わせて、MSAに頼らずに高速にタンパク質構造予測を行うモデルRGN2を開発した。UniParcデータを用いてBERTの事前学習を行い、得られた潜在表現を入力にしてRGNを学習させた。RGN2はMSAを用いるモデルと比較して全般的な予測精度は低いものの、MSA作成が難しい配列に対する予測精度は高い他、高速な予測が可能。

Deep Learning

深層学習を使ったバイオインフォ系のタスク
ProtBERTを元にしてAlphaFoldの蒸留を行ない、軽量化モデルを用いてInverse Foldingにおける生成配列の構造評価を可能にした。軽量化後のモデルはAlphaFoldと比較して10^4早くなった。構造評価のためAlphaFoldにおいて訓練時の評価指標に使われたTM(αCの平均距離)とLDDT(局所構造における原子間距離)の予測値を直接用いたが、これらのスコアによる正則化は他の生成モデル(Graph Transformer, Protein Infilling)でも有効だった。