Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (May 2022)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
30報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
リガンド(rapamycin)添加による相分離と転写の制御システムを実装した。HOTag3およびHOTag6のホモオリゴマー形成にFKBP/FRBシステムを組み合わせ、リガンド駆動型のクラスター化を実現した。通常のFKBP/FRBによる転写誘導と比較して、リガンドへの感度が高く、一度の誘導で転写促進効果が長く続く事が分かった。
相分離によるタンパク質の隔離効果も組み合わせられると面白そう。
翻訳開始時のリボソームstallingに関わる3-5番目のコドンをGFPの配列でランダム化したデータを用いて、CNNの訓練した。CNNの予測結果をRFPに適用した場合は少し(Pearson core~0.6)相関した。
GFPRFPの違いで0.6程度の相関だと、他のコドン組成の影響もかなり大きそう。
遺伝子の論理回路を、Flapjackプラットフォーム上の実験データに基づいて設計できるpythonパッケージを開発した。
試してみたい。
トリプトファンに結合する転写因子(TrpR, TrpR1)と対応するオペレーター(trpO, trpO1)から成る抑制型バイオセンサー回路を実装した。元々のTrpR1はトリプトファンとその類似化合物(5-hydroxytryptophan)の両方で活性化するが、結合ポケット(I57, V58)に変異を導入する事でそれぞれの基質に対して特異性の高い変異体(V58E, V58K)を得た。また、trpO1への変異(A4C)導入で更に基質への反応性を調整した。
遺伝子の2因子振動回路において、外部からの周期的な刺激によって振動周期を変化させられる事を無細胞系で実験的に示した。振動回路のどちらかの因子を周期的に添加する事で振動周期の増幅または低減を行なった。また、数理シミュレーションと解析によって実験時の状態遷移と分岐の整合性を確認した。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
  • SHAPE-enabled fragment-based ligand discovery for RNA
  • Authors: Zeller, Meredith J; Favorov, Oleg; Li, Kelin; Nuthanakanti, Ashok; Hussein, Dina; Michaud, Aur{\'e}liane; Lafontaine, Daniel A; Busan, Steven; Serganov, Alexander; Aub{\'e}, Jeffrey; Weeks, Kevin M
  • Journal: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1073/pnas.2122660119
  • Institution: University of North Carolina, USA
SHAPE-seqのRNA構造嗜好性を利用し、TPP(thiamine pyrophosphate)リボスイッチをデザインした。SHAPEではRNAの一本鎖部分でシグナルが強くなる事を利用して、変異体の構造のスクリーニングを行なった。その後、TPP類似体を用いて候補リボスイッチの特異性と協調的な結合性を調べた。リボスイッチ中の異なる結合ポケットと協調的に結合した二種類のリガンドを接続する事で、結合親和性が10倍以上高いリガンドを作成した。
SHAPEを使ったスクリーニングも、その後のリガンドデザインも面白かった。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
無細胞発現系においてnoncanonicalなアミノ酸を発現させる際に、他のペプチジルtRNAによって翻訳されてしまう割合を低下させる手法を開発した。リボソームのS12タンパクに変異(K42T)を導入する事でtRNAのコドン-アンチコドン対合の厳密性を向上させた。N, C末端にそれぞれHis-Tag, FLAG-Tagを付加した際の翻訳効率を計測すると、WTではN末端と比較してC末端の配列の翻訳効率が悪かったが、変異リボソームでは全長の翻訳率が大きく向上した。
細胞内でどの位差が出るのか気になる。
parainfluenzaウイルスにおけるfusion peptideが細胞膜に水透過性の孔のような構造を作ることで細胞内への侵入を開始する様子を、実験とMDシミュレーションによって明らかにした。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
  • Signal transduction in light-oxygen-voltage receptors lacking the active-site glutamine
  • Authors: Dietler, Julia; Gelfert, Renate; Kaiser, Jennifer; Borin, Veniamin; Renzl, Christian; Pilsl, Sebastian; Ranzani, Am{\'e}rico Tavares; Garc{\'\i}a de Fuentes, Andr{\'e}s; Gleichmann, Tobias; Diensthuber, Ralph P; Weyand, Michael; Mayer, G{\u}nter; Schapiro, Igor; M{\o}glich, Andreas
  • Journal: Nature communications
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41467-022-30252-4
  • Institution: University of Bayreuth, Germany
青色光受容体であるLOVドメインにおいて、吸光活性部位のGln残基のない変異体を作成し、長らく必須と考えられていたGln残基が吸光反応に必要でない事を示した。初めにBsYtvAのQ123についてスクリーニングを行うと多く(14/19)では青色光に対する反応が保持された。この内、反応性と構造が最もWTに近かったQ->L変異を他のLOVタンパク質(NmPAL, AsLOV2)に導入すると、吸光活性は同様に保持された。
Fig2bが綺麗で面白い。実はちゃんと検証されていない活性グループがLOVドメイン以外にもありそう。
酸化還元反応を受ける転写因子(SoxR)と酸化還元反応を媒介する化合物(pyocyanin, DHNA, methyl viologen)を用いて、電気化学的に制御可能な遺伝子回路を実装した。天然のPsoxRは上下の転写を誘導してしまうため、単方向性のプロモーターをデザインした。
生体に内在性の溶質で出来るともっと面白くなりそう。

Protein Engineering

タンパク質工学
Ca2+センサー(GECO)を用いて、E.coliのナノポアタンパクの機能をスクリーニングする系を開発した。また、S(21)68ホーリンについて、ナノポア形成に必要な最小モチーフ単位を同定し、細胞膜内側のリング構造を異なる由来のものに置き換える工学的手法を可能にした。
スクリーニングから工学までの流れが良かった、面白い。
E. coliの抗生物質耐性タンパク(FabZ, LpxC, MurA)を対象にdeep mutational scanningを行なった。タンパク表面の残基について変異耐性を解析するとMurAが最も変異しづらく、抗生物質耐性も獲得しづらかった。
結果はそれ程振るわなかった感じがあるが、面白い試み。

CRISPR/Cas

クリスパー系
  • Engineered Cas12i2 is a versatile high-efficiency platform for therapeutic genome editing
  • Authors: McGaw, Colin; Garrity, Anthony J; Munoz, Gabrielle Z; Haswell, Jeffrey R; Sengupta, Sejuti; Keston-Smith, Elise; Hunnewell, Pratyusha; Ornstein, Alexa; Bose, Mishti; Wessells, Quinton; Jakimo, Noah; Yan, Paul; Zhang, Huaibin; Alfonse, Lauren E; Ziblat, Roy; Carte, Jason M; Lu, Wei-Cheng; Cerchione, Derek; Hilbert, Brendan; Sothiselvam, Shanmugapriya; Yan, Winston X; Cheng, David R; Scott, David A; DiTommaso, Tia; Chong, Shaorong
  • Journal: Nature communications
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41467-022-30465-7
  • Institution: Arbor Biotechnologies, USA
tracr構造のないgRNAと複合体を形成するCas12i由来のCasシステムを開発した。WTは編集効率が低かったが、typeVのCasにおいてArg又はGly置換を導入する事で編集効率が向上するとの仮説(先行研究)の元でスクリーニングを行い、SpCas9と同等の編集効率を持つ変異体を得た。また、off-target編集はSpCas9よりも少なかった。
gRNAの設計難易度がどれくらい変わるのかが気になった。
Cas9と進化的に共通の祖先を持つinsertion sequence elementであるIscBとωRNA(IscB近傍にコードされたncRNA)との複合体の結晶構造を解析し、TAM(target adjacent motif)認識やR-loop形成、DNA切断における構造的メカニズムを解明した。Cas9とIscBは配列、構造、機能的類似性を示唆する観察結果が得られた。
Cas9がトランスポゾン由来だとは知らなかった。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、代謝酵素工学など
タンパク質工学に置いて一残基変異のスクリーニングでは検出できないepistaticな(単一では性能が下がるが組み合わせると性能が上がるような)変異を探索するスクリーニング手法を酵素で開発し、malnourished-CoA合成酵素を対象にスクリーニングを行なった。スクリーニングでは、基質の類似体を18種類混ぜて使用し、複数の変異株を同一のウェルに混ぜて測定を行った後、最も性能の良かったウェルから基質と変異株の同定を行う。この方法により、いずれかの基質に対して反応効率が高ければ変異を捕捉できるようになり、epistatic変異を検出可能になった。
やりようによっては酵素以外にも適用出来そうな面白いアイデア。配列の潜在空間を数理的に探索する場合との比較も気になる。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
ランダムなgRNAとSpCas9-NG(PAM選択性が緩いもの)を用いて、ゲノムに変異を導入する進化手法を開発した。S.cerevisiaeにおいてβ-carotene合成量を増加させる選択をかけるとchromosomal rearrangementも含む大規模なゲノムの再編成と共に進化を起こした。
進化後のシーケンシングコストが大変そうだが、面白かった。
酵母ゲノムにおいて生存に必要な遺伝子上流に弱いプロモーターを組み込む事でターゲット領域のコピー数増幅を誘導し、目的の挿入遺伝子コピー数、発現量を増加させる手法: HapAmpを開発した。応用例として、内在性の代謝産物(neolidol, limonen, lycopene)生産を増幅させた他、外来遺伝子(AeBlue, HPV16 L1)の発現量も増加させる事ができた。
イデアが面白かった、発展性もありそう。

Miscellany

その他

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
生化学的な分子の様々な特徴抽出手法(DNA: 43種, RNA: 33種, アミノ酸配列: 65種, タンパク質構造: 14種, リガンド: 17種)を一つのツールにまとめた。
深層学習をかけられない小規模データで特徴抽出するのに助かる。
タンパク質事前学習モデルとグラフ表現を組み合わせて、タンパク質間相互作用を予測するGCNモデルとGAT(graph attention network)を作成した。PDBの構造を元に作成したグラフについて、LSTMベースまたはBERTの事前学習モデル(SeqVec, ProtBERT)から得られた配列分散表現をグラフのノード情報として入力に用いた。多くの評価指標でSeqVec+GATのモデルが最も良い精度を達成した。
ProtBERTより他のモデルの方が良いかもしれないが、配列長の制約?
ProtBERTの埋め込みをタンパク質のグラフのノードとして、PDBからの構造又はAlphafoldによる予測構造をエッジとして転移させ、graph-attentionでタンパク質とペプチドの結合部位予測を行なった。
Alphafoldとの比較を色々しないとで大変そう。

Machine Learning

機械学習を使ったバイオインフォ系のタスク
Cas9のオフターゲット部位予測タスクについて、精度・データサイズ共に良い最新のシーケンスデータを用いて予測モデルを構築した。実験によるとリード数の対数化とネガティブデータ(off-target部位ではない配列)の追加によって予測精度が向上した。
タンパク質およびペプチドの細胞毒性を予測するタスクにおいて、BLASTやモチーフ探索といったバイアスの強い手法とに機械学習手法とを組み合わせて種々のデータセットで高い(AUC~0.99, MCC~0.91)精度を達成した。
マニアックな予測タスク、嫌いじゃない
1600以上のChIP-seq、PBM、SELEXの各データを用いてTF-DNA結合を定量的に予測するモデルを作成した。学習後のモデルを組み合わせて塩基修飾の影響予測、Kd予測、ChIP-setからの直接モチーフ抽出を可能にした。
泥臭いデータ処理を物凄い数やっていて尊敬する。
アミノ酸配列に一残基の変異を入れた場合の自由エネルギー変化を予測するツール(DDGun)のweb版を公開した。DDGunの予測はBLOSUM62からの進化スコア、配列内部の相互作用スコア、疎水性スコア、(あれば)立体構造における相互作用スコアの重み付き和を取る形。
重みの定数は訓練していないと主張しているが、既知データセットとの相関度合いを参考にしたらしい。それはもう訓練してるし、素直にフィッティングした方が良くない?
DNAのハイブリダイゼーション回路における回路解析を行うツールを開発した。これを利用してleak(意図しないstrand displacement)の検出やleakを引き起こす反応経路を同定する事が可能。

Biology in general

クライオ電顕とFRETによる蛍光観察から、8アミノ酸抗生物質ペプチドの一種であるargyrin BがEF-Gとの結合を介した翻訳阻害によって細胞の生育を阻害する事を明らかにした。
ppGpp(guanosine tetraphosphate)がバクテリアの成長速度に関わることは知られていたが、E. coliにおいてppGpp濃度が翻訳伸長速度によって制御されている事を数理モデルにより示した。翻訳伸長中のリボソームのA siteにRelA(GDPをppGppに変換する)結合型tRNAが入り込む事でppGpp濃度が増加する。また、ppGppがリボソームオペロンの転写抑制とリボソームを不活性化する遺伝子の転写促進を行う回路のモデル化も行なった。
E. coliの細胞分裂における主要なタンパクであるFtsAによる分裂開始機構をin vitroで再構成し、拡散速度や活性化状態での生存時間などを定量化した。
E.coliの細胞内RNAの長さをシーケンスで解析したところ、60%以上のRNAが分解中のものだった(リボソーム結合状態のRNAでは少ない)。
分解中のRNAに生物学的な役割があると面白そうなくらいの割合。
同一の蛍光波長で異なる蛍光持続時間を持つ蛍光プローブを用いて、複数の細胞内ターゲットを同時に観察する手法(fluorescence lifetime multiplexing)を18種類の化学的蛍光プローブへ拡張した。初めに各プローブの蛍光持続時間を計測し、応用例として8種類の異なる細胞部位を同時に観察する事に成功した。
パラメータ次第では蛍光タンパクにも応用できるかも。持続時間をターゲットにした蛍光タンパクデザインも出来るかもしれない。