Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (May 2021)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
21報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
筆者らがC. ethensisのゲノムから遺伝子(672 CDS, 54 non-coding)を抽出&コドン最適化して作成したC. eth-2.0 からの発現と、元のC. ethensisの染色体からの発現とを比較し、より厳密な遺伝子アノテーションや遺伝子発現制御機構を明らかにした。ゲノムデザインにおける不確実性を減らすため、ターミネーター領域の追加、-35 boxやTSSが導入された場合のスクリーニング、連続したCDSを二つに分ける事による翻訳開始点(TIS)での変異導入回避、を提案し、C.eth-3.0を作成した。また、リボソームタンパク質(RpIS)の翻訳において、mRNAが構成するヘアピン構造が翻訳開始を促進する作用を持つことを示した。
ボトムアップな方法でゲノム全体の発現制御様式に示唆を与えていて良い。
E.coliのシグナル分子の分泌量をweightに見立て、クオラムセンシングを用いたニューラルネット様のネットワーク回路を構築した。入力シグナルを受け取りそれぞれ異なる量のシグナル分泌(weight)を行うsender株と、分泌されたシグナルを受け取り出力(EYFP)を計算するreceiver株とを混合培養することで、シグナル伝達の様子を4bit(4種類のsender株からのシグナルの足し算)で表現した。ランダムなsender株からスタートし、出力(EYFP)を見ながら各sender株の発現レベルを勾配法的に調節した。
言いたい事は分かるが無理矢理感が否めない。
複数のsplitリコンビナーゼ(Cre, Flp, PhiC31)の各ステップごとに、活性化したリコンビナーゼ自身の遺伝子を切り出す設計にする事で反応をカスケード化した。リコンビナーゼとCas9のgRNAとを並べて協調的に発現させる事でCas9のカスケード化にも成功した。
回路設計アイデアが面白い。
哺乳類細胞(CHO)の複数遺伝子発現ベクターにおいて、ベクター内での遺伝子の挿入位置によって発現効率が異なるという報告。
定性的には興味深い内容だが、定量化部分がやや雑な気も。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
トリガーとなる短鎖RNAによってON/OFFをアロステリックに切り替える事が出来るcrRNAを設計した。トリガーRNAがcrRNAと相補的に結合する事で、Casとの結合に重要な二次構造を完成させる/壊す事によりON/OFFを切り替える。
Toehold switchのデザインをcrRNAに適用したような感じで面白い。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
E.coliを人工半透膜に内包させた後の分解処理によって必要な分子のみを膜内に残す事で、無細胞発現系を低コストで作る手法を開発した。通常の無細胞発現系の13%のコストで55%の発現効率を達成した。
発現効率を向上させる余地はまだありそう。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
AsLOV2を循環化(circular permutation)させる事によりケージ構造の嗜好性を解消し、循環化なしでは不可能だったLOVドメインC末端側へのドメインの伸長を可能にした。作成したcpLOV2を用いてZdk2とのヘテロ二量体化、MLKLを用いたプログラム細胞死、CARの腫瘍抗原シグナル伝達、を青色光で誘導するシステムをそれぞれ実装した。
LOVドメインの使い辛さを比較的真似しやすい方法で解消していて影響が大きそう。

Protein Engineering

タンパク質工学
DNAとRNAの両方にシチジンデアミナーゼ活性を持つAPOBEC3Aにおいて、結晶構造から特定した核酸認識に重要な残基に変異を加える事で、RNAへの活性のみを示す変異体を作成した。
変異を加える残基の選定については書かれていたが、どうやって変異後のアミノ酸を選んだかはよく分からなかった。

CRISPR/Cas

クリスパー系
ゲノム解析の不足が原因で遺伝子ドライブ技術が開発されていなかったCulex種の蚊において、Cas9とgRNAを組み込むのに適切な座位を決定した。また、Culex種では相同組み換え修復(HDR)による遺伝子導入効率の低さも問題であったが、gRNAの構造部分に変更(1. ステムループのステム部分を4塩基対分伸長 2. TTTTをTTTCに変更)を加える事でHDRによる導入効率を向上させた。また、gRNAの構造に変化を加える同様の方法がショウジョウバエでも有効な事を示した。
遺伝子ドライブにおいて意図せず起こる体細胞遺伝子組み換えを定量化するため、誘導された変異と体細胞で起こるNHEJとを区別して蛍光タンパクを発現するCopyCatcherシステムを提案した。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
脂肪酸の一種であるオクタン酸の酵母での生合成量を向上させるため、脂肪酸によって発現誘導されるプロモーター(pPDR12)とON/OFF倍率を増幅する回路を組み込んだ系統株をFACSにかけ、高い生合成量を持つ変異を得た。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
光誘導型の二量体化(FKBP/FRBとdRap)によるキネシンの膜局在を用いて、人工細胞膜内に特定の微小管ネットワークを形成する方法を提案。キネシンによる誘導を加えない場合は時間と共に膜に沿った球状の微小管ネットワークが見られ、キネシン誘導を加えると方向性のある紡錘型のネットワークが形成された。
自己組織化を誘導するタイプの設計は難しそうだがワクワクする。
4種類の人工核酸合成ポリメラーゼ(FANA/ANA, HNA, TNA, PMT)について、基質特異性、熱耐性、逆転写酵素活性の観点から評価を行った。
複数のツールを比較評価する良い論文。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
C. elegansの腸内に、RNA断片を発現する遺伝子回路を組み込んだE.coliを導入し、C.elegansゲノムへのRNA干渉によるGFP発現抑制(リコンビナントgfp)、筋収縮誘導(unc22)、脂肪蓄積抑制(sbp-1)を可能にした。また、E.coliからのRNA発現に論理回路を組み込むとC. elegansの形質の変化も論理回路的に制御する事が出来た。
特にプロモーター未知の原核生物種において、RNA-seqデータから発現量の多いプロモーターを同定する計算フレームワークを開発した。異なる実験条件でのRNA-seqから得た発現量の情報から遺伝子をランク付けした後、上位の遺伝子の上流300bp以内のnon-CDS領域から-35/-10領域のコンセンサスモチーフを探索した。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
タンパク質配列の大規模データで事前学習済みのモデル(Seqvec: ELMoベース, ProtBert: BERTベース, ProtT5: T5ベース)からの出力表現を使って一層のattentionを学習させると、10クラスのタンパク質局在部位予測問題において、既存モデルの予測性能を上回った。
普通のfine-tuningとの比較もして欲しいところ

Other Biology

Vibrio Phage PhiVC8に含まれるPurZのホモログ配列解析および結晶構造解析から、このタンパク質が三つ目のプリン塩基(2-aminoadenine)合成経路に関わっている事を示した。