Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (May 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
36報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
lacI遺伝子の欠失、変異をインプットに取るイベントカウンター回路を用いて、direct repeat deletion(DRD)の回数を定量化し、反復配列の長さおよび関連遺伝子(uvrD, radA)がDRDの頻度に与える影響を解析。(Bacteria: P. aeruginosa)
面白いアイデア
pET発現系において2つの問題点(1.プロモーター領域のT7ファージコンセンサス配列が欠けている 2.転写開始領域に非最適な改変が見られる)が広く蔓延していることを指摘し、これらを改善することでタンパク質発現量(sfGFP)が33-121倍まで増加することを実証。(Bacteria: E.coli)
酵母において、xylose誘導性TFであるXylRと活性ドメインVPRHとを融合したアクティベーターと、それに対応する人工プロモーターを用いてxyloseバイオセンサーを構築。(Yeast: Y. lipolytica, S.cerevisiae)
誘引物質xanthosineの細胞内輸送と分解によって制御される転写制御回路xapABR(XapA:xanthosineを分解, XapB:TF, XapR:膜状のxanthosine輸送タンパク)の動力学を実験とモデル(相転移解析、確率的シミュレーション)により解析。(Bacteria: E.coli)
電極からの電子によって酸化された酸化型pyocyaninが電子を供給することではたらくTF(SoxR)システムの下流に、CRISPR/Cas9によるシグナル増幅および整流回路を組み込むことで、電極に流す電流の大きさによって最下流のレポータータンパク質の発現量を時空間的に調節する機構を開発。(Bacteria: E.coli, S.enterica)
こいつはすごい
  • Genetic switches designed for eukaryotic cells and controlled by serine integrases
  • Authors: M.S. Gomide, T.T. Sales, L.R.C. Barros, C.G. Limia, M.A. de Oliveira, L.H. Florentino, L.M.G. Barros, M.L. Robledo, G.P.C. José, M.S.M. Almeida, R.N. Lima, S.K. Rehen, C. Lacorte, E.O. Melo, A.M. Murad, M.H. Bonamino, C.M. Coelho & E. Rech
  • Journal: Communications Biology
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s42003-020-0971-8
  • Institution: CENARGEN & University of Brasília, Brazil
E.coliで実装されていたIntegraseシステム(Int2,4,5,7,9,13)を真核生物の細胞で実装、(Mammalian cells: HEK293T, Bovine fibroblast, human PMBC, hEC; Plant cells: A.thaliana protoplast)

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
文献で報告されているアプタマーの中から同一のタンパク質に対してorthogonalに結合可能なアプタマーペアを特定し、一方を基質に固定しもう片方をAgNPに結合させることで、高感度かつ低ノイズなimmunoassay手法を開発。

Protein Engineering

タンパク質工学
ラクトーススクロースのチャネルタンパク質(LacY, CscB)において、膜脂質の構成要素(phosphatidylethanolamine, phosphatidylcholine)の違いによってタンパク質の構造や機能に変化が出ることを証明。(Bacteria: E.coli)

CRISPR/Cas

クリスパー系
Cas9活性に伴う細胞死を目安に活性の定量化を行い、ターゲットのゲノム中での座標、Cas9プロモーター強度、細胞の生育環境の少なくとも3要因がCas9活性に影響することを実証。(Bacteria: E.coli)
  • A Cas9 with PAM recognition for adenine dinucleotides
  • Authors: P. Chatterjee, J. Lee, L. Nip, S.R.T. Koseki, E. Tysinger, E.J. Sontheimer, J.M. Jacobson & N. Jakimo
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2020
  • DOI: s41467-020-16117-8
  • Institution: Center for Bits and Atoms, USA
5'-NAAN-3'の全16種類のPAM配列をターゲットに高い活性と特異性を示す新たなCas9(iSpyMac)を発見、開発。
CRIPSR配列のクローニングを高効率に一度のアセンブリで可能にする手法の開発。
  • Machine learning predicts new anti-CRISPR proteins
  • Authors: S. Eitzinger, A. Asif, K.E. Watters, A.T. Iavarone, G.J. Knott, J.A. Doudna & F.A.A. Minhas
  • Journal: Nucleic Acids Research
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1093/nar/gkaa219
  • Institution: UC Berkeley, USA; Pakistan Institute of Engineering and Applied Sciences, Pakistan
既存のArcsのアミノ酸配列情報を元に学習させたXGBoostモデルを用いて、SpyCas9を阻害するArcsをStreptococcusゲノムから同定し、生化学的に検証。
422-603残基のアミノ酸から成る比較的小さな10種類のCas12fヌクレアーゼに対し、PAM配列依存のターゲットdsDNA切断を実装。
CRISPR/Casシステムのオフターゲット活性を調べる手法として、dCasの結合特異性シーケンス(Spec-seq)とCasのエンドヌクレアーゼ活性シーケンス(SEAM-seq)からオフターゲット配列を解析。(in vitro)
従来のqPCRによる検出方法に比べて簡便かつ高感度(~1aM, 100倍程度)な細菌(E.coli O157:H7, S.aureus)検出手法の開発。細菌のゲノム中からRPA(recombinase polymerase amplification)によりターゲット領域を増幅し、それをターゲットにとるCas12aによりssDNA-FQを切断することで蛍光を検出。(in vitro)

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
代謝におけるフマル酸からアスパラギン酸、β-アラニンを合成する経路を通じて、E.coli内でアクリル酸を人工合成する経路を開発。(Bacteria: E.coli)
L-チロシン代謝経路における酸化反応で発生する電子の流れを、金イオン電極によって電流として解釈する機構を、代謝開始物質(L-チロシン)を産生する株と代謝酵素(チロシナーゼ)を産生する株の二種類のE.coli株を共培養することで、有毒な誘導物質無しに起こすことに成功。(Bacteria: E.coli)
マロニルCoAを抑制因子にしたフィードバック回路および、その回路を用いたマロニルCoA合成量の振動回路の構築(Yeast: K. phaffii)
マイクロ流路において物理的に仕切られた二種類の細胞集団間での生体分子のやりとりを解析し、QSシステムや代謝産物の交換における集団としての発現形質が時空間的パラメータによってどのように変化するかを分析。(Bacteria: E.coli)
物理的な仕切りを利用した段階的な代謝反応や回路構築への応用が出来そう。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
単離したチラコイド膜とCO2固定化に関わる一連の酵素群をin vitroで反応させることで葉緑体の擬似的な炭素固定システムを構築し、更にそれをマイクロ流路上で形成した油膜中に封入することで擬似葉緑体を作成。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
検体数に制限のある哺乳類で腸内細菌叢のエンジニアリングを行うにあたって、DNAバーコードを施したE.coliを用いて複数のコンストラクトを同時に調べる手法を開発。
三角形のDNAオリガミの構造を、分子動態シミュレーションとローカルなエンドヌクレアーゼ活性のデータから解析。

Biochemistry

生化学系
正負それぞれに帯電させたGFP(GFP-30, GFP+36)と正負それぞれに帯電したタグを付加したmCherryを用いてタンパク質精製を行うことで、GFPをハブとしてmCherryが間を架橋する自己組織化タンパク質複合体を合成。結晶を生じるほどの相互作用。(in vitro)

Computational Biology

細胞骨格形成において、Arp2/3複合体がアクチン重合時に起こる細胞の収縮速度を制御するはたらきをしていることを、アクチン重合のシミュレーション(MEDYAN)により定量的に実証、評価。
B.subtilisにおいて青色光照射によって誘導されるカチオンの膜間輸送量の変化を利用して、バイオフィルム内で膜電位のメモリ機構をモデル化、実装。(Bacteira: B.subtilis)
筆者らが導入したintegrative circuit-host modling frameworkを用いて、遺伝子回路の相転移に関わる具体的な環境変数とその動態を解明。

Bioinformatics

ヒト細胞に用いるCRISPR/Cas9のsgRNAデザインのためのモデルを。XGBoostとSVMの結果をロジスティック回帰によって一つの結果に合成。
マルコフ連鎖を用いて隣接する塩基配列の情報を取り入れたTFモチーフ予測モデル。他にも、モノマーTFのモデルをダイマーへと拡張することで、ダイマーTFモチーフも予測可能に。
生理条件下におけるアミノ酸残基の電荷と極性を考慮に入れ、アミノ酸配列情報のみからタンパク質が正常な機能タンパクか折り畳みに異常のある変異タンパクかを予測するアルゴリズムを開発。
RNA-seqのシミュレーションデータ生成において、従来の理論モデルを元に計算を行う方法ではなく、実際のRNA-seqデータに人為的にシグナルを加えることで現実的なデータ生成を実現。
両生類ミトコンドリアゲノム中の短い反復配列(5-30bp)を網羅的に解析、同定。
アポトーシス関連タンパクの細胞内の分布位置を予測。既知のタンパクに関してコンセンサス配列に基づく遷移行列と配列のエントロピー比較により特徴抽出を行い、LDAによる次元削減後SVMで予測。

General Biology

バクテリアTFの進化生物学的解析から、適応初期段階ではTFの多様性が増大していく一方で初期段階を過ぎると進化圧を受けて変異速度が低下していくことを解明。