Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Jul 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
27報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
TetRによるネガティブフィードバックとフィードフォワードループについて、温度依存性を実験的に測定後、数理モデルで結果を支持。
ここの温度依存性は分子生物学的には何に依存しているのか気になるところ。GFPの蛍光活性の問題か、反応物の衝突頻度の問題か、また別か。
orthogonalなHSL分子(C14-HSL, C4-HSL)を媒介にした相互抑制系(lacI-11, rbsR-L)を用いて、二種類の細胞の内、環境中に生存数の多い方が最終的に環境を埋め尽くすようなシステムを構築。(Bacteria: E.coli)
やり尽くされた感のある課題ではあるが、実験結果は例外的にクリア。
遺伝子回路では頻繁に使用されているTFリガンドであるaTcが、数十秒~数分の近紫外光(375nm)でほとんど分解される事を示し、光照射による短時間かつ正確な濃度操作&それに伴う遺伝子発現量操作が可能に。(Bacteria: E.coli)
広く使われていたシステムだけに誰も知らなかった事が驚き。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
酵母におけるriboswitchを実現するため、真核生物の翻訳開始前複合体をmRNA上のヘアピン構造(MCPにより安定化)によって物理的に停止させ、リボソームの完成を待つ機構を開発。これにより、AUGではない開始コドンを使った翻訳も可能に。(Yeasts: S.cerevisiae)
似たような非AUGの開始コドン機構ががん細胞で見られるらしく、一般の分子細胞生物学へアンテナを張っておく重要性も感じる。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
  • Cell-free biosensors for rapid detection of water contaminants
  • Authors: J.K. Jung, K.K. Alam, M.S. Verosloff, D.A. Capdevila, M. Desmau, P.R. Clauer, J.W. Lee, P.Q. Nguyen, P.A. Pastén, S.J. Matiasek, J.-F. Gaillard, D.P. Giedroc, J.J. Collins & Julius B. Lucks
  • Journal: Nature Biotechnology
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s41587-020-0571-7
  • Institution: Northwestern, USA
Julius Lucksの無細胞系センサーの新作。T7-RNAポリメラーゼと、Brocolliアプタマーの系統の一つ(three-way junction dimeric Broccoli)を構成要素とする蛍光標識のテンプレートを提案し、このテンプレートにTFと対応する結合配列を導入することで少なくとも16種類のTFについて、そのリガンドとなる水質汚染原因物質を高感度で検出可能に。(cell-free: bacterial)

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
MerRによるHg+イオン誘導型の転写誘導でルシフェラーゼ(luxCDABE)カセットを発現し、ルシフェラーゼの青色光で細胞表面のpMagによる細胞凝集を活性化。(Bacteria: E.coli)
luxCDABEの発光量、波長でpMagの活性化が出来た点は割と驚き。発現量調節は必要だが、Cell-free系のセンサーで利用されているような他のTFリガンドに対しても応用出来そう。
かつてはcpGFPが使われていた、CalmodurinとRS20からなるCa+センサーの蛍光タンパクをmNeonGreenを用いることで、更なる性能(Ca+反応性、蛍光強度)の向上を可能に。(Mammalian cells: HeLa, Rat cortical neurons, hiPSC)
エンドソーム内側の糖鎖に特異的に結合するGalectin8とsplit-luciferaseをリンカーで繋いだG8G8システムにより、エンドソームの崩壊をluciferase発光で検出する機構を開発。(Mammalian cells: HEK293T)
エンドソームの崩壊というネガティブな出来事をポジティブに検出するアイデアが秀逸。
光によって可逆的にZE異性化を起こすシアノバクテリオクロム色素の一種を新たに発見し、これに変異を加える事で、400nmから600nmまでのそれぞれ異なる波長の光でZE異性化を起こす7種類の変異体を作成。(in vitro)
近赤外光(730nm)反応性のBphS(GTPをc-di-GMPに変換)、c-di-GMPによって二量体化&活性化するp65-V64-BlbD(人工TF)、split Cre-loxPリコンビナーゼを組み合わせ、近赤外光によるリコンビネーション誘導を実装し、生体マウスでの機能を実証。(Mammalian cells: HEK293T, hMSC-TERT, Live animals: BALB/c mice)
近赤外光を利用した生体マウスでのリコンビネーション誘導まで遂に来たかという感じ。

Protein Engineering

タンパク質工学
認識する塩基配列とは離れた配列への切断活性をもつ制限酵素を用いて、認識配列を含む配列カセットを作成。それを用いて、in-frameなInDelをランダムに引き起こしてInDel変異のライブラリを作成。
タンパク質工学におけるランダム変異の選択肢が増える画期的な手法。
プロリン合成の副経路にはたらくornithine aminotransferaseをdirected evolutionするに当たって、変異導入時に対象の配列のコドンを使用頻度の低いもの(rare codon)に入れ替える事で、細胞の成長度合いを全体的に低下させ、特に酵素活性の顕著なものを選出する手法を確立。(Bacteria: E.coli)
growthに関わるものだけでなく蛍光タンパクのdirected evolutionでも、進化の伸びが頭打ちになりかけた段階でこの方法を取り入れると効果的かも。
目的のタンパク質(chorismate mutase: 芳香族アミノ酸合成に関わる酵素)のホモログ配列のアライメントから計算した、各残基における尤度を元に、モンテカルロ標本を取得しwetでスクリーニングする事で、新規の酵素をデザイン。(Bacteria: E.coli)
こういう手法でスクリーニングの規模が抑えられれば、スタンダードになっていくのでは。

CRISPR/Cas

クリスパー系
菌類におけるCRISPRaを利用した遺伝子クラスター発現制御機構を樹立。(Fungi: A.nidulans)
ランダム配列の中からCRISPRの有効なモチーフを持つものだけがlacI転写を抑制できるようにしたものの下流に細胞生育に必須なxylABを配置する事によるターゲット配列のスクリーニング手法を用いて、SpyCas9の新たなターゲットモチーフ N(A/C/T)GG を同定。(Bacteria: E.coli, Mammalian cells: U2OS, HEK293T)

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
doxycycline依存性のβ-catenin活性調節機構を人工的に導入し、Wntシグナル経路とそれに続く肝細胞の分布を再現。(Mammalian cells: e-mHepB)
C.crescentusのキナーゼDivLのcoiled-coilモチーフにロイシンジッパーを融合させる事で、DivLが通常一方向にのみ伝えるキナーゼ活性シグナルを人為的なシグナルを用いて二方向に流す事に成功。(Bacteria: C.crescentus, E.coli)

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
20種類のtRNAを人工的に転写、合成し、人工合成したtRNAを用いてcell-free系でタンパク質の翻訳を実現。(in vitro)

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
RNAのみを用いたRNA origamiを実装し、全ての構成要素が試験管内反応で合成可能に。(in vitro)
de novoデザインされたcoiled-coil構造と細菌(S.aureus)の棒状の膜タンパク(SasG)から成る、自己組織化する繊維構造を開発。(in vitro)
二本の腕を持つホモダイマーと四本の腕を持つホモテトラマーとが互いに相互作用し合って細胞質で格子状構造を取る機構を開発し、この構造の密度を用いて細胞における相分離を可視化する事に成功。(Yeasts: S.cerevisiae)
この構造体によって相分離の具合にどの程度変化が現れるのかは不明だが、相分離系の生物工学にとっては非常に大きな一歩。

Biochemistry

生化学系
生化学的な小分子センサー開発における二種類のアフィニティ調節方法(1:非結合状態のセンサーを別の立体構造に変性させる 2:非結合状態のセンサーをアロステリックに調節する)を確立し、DNA/RNAアプタマーを用いて実証。(in vitro)
タンパク質で出来れば理想的。

Bioinformatics

特に大腸菌のσ70プロモーターを対象に一定のデザインルールをクリアしたランダムな非反復配列をハイスループットに合成、転写活性を調べた結果について、配列のUMAPクラスタリング後の要素と実験的に得られた転写活性との相関から関連性を説明。また、酵母についても同様の手順で実験を行い、提出した非反復プロモーターデザインの汎用性を示した。(Bacteria: E.coli, Eucaryotes: S.cerevisiae)
各遺伝子配列をグラフによって説明している点が面白かった。配列をグラフで上手く示すことが出来れば精度の高いGCNの導入も可能かも。

General Biology / Biotechnology

in silicoでの遺伝子配列のデザインからタンパク質精製までを、cell-freeでのタンパク質発現(IVTTシステム)に最適化した線形DNAデザインを利用して完全自動化。
ランダムに生成したRBSを対象に、RBS下流の反転リコンビナーゼによるmCherry配列の反転度合いをNGSと蛍光測定によって極めて正確かつハイスループット定量化する手法を開発し、得られたデータでResNetの訓練を行ったRBSの発現強度予測ではR^2=0.927の結果を得た。(Bacteria: E.coli)
RBS以外の要素や、それらの組み合わせについても是非応用して欲しいところ。