Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Sep 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
29報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
ピルビン酸反応性のTF(PdhR)とアンチセンスRNAを用いたRNA干渉によって、ピルビン酸産生量のON/OFFをそれぞれ独立に制御。これを用いて下流代謝経路(グルタミン酸)の合成量をコントール。(Bacteria: B.subtilis)
RNAiのモデリングまでがっつり加えてある。
インテグラーゼを用いたイベント記憶型の論理回路において、複数の細胞株に異なる遺伝子回路を保持させる事でよりモジュール化された論理回路構築が可能に。また、最大で5-inputまでの遺伝子回路の振り分けをin silicoでデザインし、wetの結果と合わせて最適化する方法を確立。(Bacteria: E.coli)
筆者らの以前の研究で基質結合コアとDNA結合部位のモジュール性が高いことが示唆された三種類の構造の似たの基質要求性リプレッサー(LacI: IPTG, FruR: fructose, RibR: D-ribrose)のアクティベーター変異ライブラリを作成するに当たって、リプレッサー→常時発現OFF活性の変異リプレッサー(super-repressor)→変異アクティベーターの順で変異を加えていく方法を開発。また、開発した変異アクティベーターの基質結合コアに対して別のDNA結合部位を添付する事で、ライブラリを拡張する事に成功。(Bacteria: E.coli)
基質結合コアとDNA結合部位のモジュール性の高いTF(バクテリアのTCSなど)で広く応用出来そう。
哺乳細胞の転写翻訳における細胞内資源競争がどのように影響し合っているのかを実験的&数理的に解明し、miRNAを用いた目的の遺伝子(Gene Of Interest)mRNAの翻訳抑制により、複数の遺伝子を回路に導入した場合の資源競争による発現量変化を緩和させる事に成功。(Mammalian cells: HEK293T, U2OS, HeLa)
一つ一つのステップが非常に丁寧で良い。
互いに直交性の高い二種類のQSシステム: traシステム(esaI => 3-oxo-C6-HSL => TraR)とlasシステム(lasI => 3-oxo-C12-HSL => LasR)を用いて、一度のinductionに対して二段階(GFPRFP)で定常状態に達する系(automatic delayed cascade)を開発。(Bacteria: E.coli)
  • Engineering and application of a biosensor with focused ligand specificity
  • Authors: D.D. Corte, H.L. van Beek, F. Syberg, M. Schallmey, F. Tobola, K.U. Cormann, C. Schlicker, P.T. Baumann, K. Krumbach, S. Sokolowsky, C.J. Morris, A. Grünberger, E. Hofmann, G.F. Schröder & J. Marienhagen
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s41467-020-18400-0
  • Institution: Forschungszentrum Jülich, Germany
L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-リシンと結合するTFであるLysGに対し、結晶構造から特定したアミノ酸結合部位の残基にsaturation mutagenesisをかけたものをFACSでスクリーニングし、L-アルギニン、L-ヒスチジニンとの結合特異性を保ちつつL-リシンとの結合性を失くした変異体を作成。(Bacteria: C. glutamicum)

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
Taqポリメラーゼに結合して抑制するアプタマー配列の両側に二種類のRNA配列をそれぞれ繋げた構造(CLTAS: Clamp-Like Triplex Aptamer Structure)を用いて、可逆的にTaqポリメラーゼの活性をスイッチングする機構を開発。伸長したRNAの内の片方は、ターゲットのRNA配列(mRNAなど)とのWatson-Click塩基対形成を行い、もう片方が更にHoogsten塩基対形成を行う事で構造を安定化し、アプタマーを活性化する。また、伸長したRNA配列に制限酵素認識部位を含ませる事で、可逆的にポリメラーゼ活性を制御。(in vitro)
ssDNAの論理式的なものを組み込めば制限酵素を使わなくてもON/OFF出来そう(?)
miRNAに青色光反応的に結合するPALタンパク質に対して、PALと結合するアプタマー部位と機能的miRNAとを融合させたRNAを作成。GFP発現コントロールの他、細胞内のcyclinB1, CDK1の発現量コントロールが微かに可能である事を実証。(Mammalian cells: HEK293T)
PAL自体も同二研究室から去年出ていたらしく、分野の広がる感じがして面白かった。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
lacオペロンにおけるcIのプロモーターを、青色光反応性のYF1-FixJシステムによる制御プロモーターに置き換えることで、IPTGによる誘導と同レベルの制御を青色光による誘導で可能に。(Bacteria: E.coli)
暗条件でONになるようにしている辺り、YF1-FixJの光感度が高さが問題っぽい。
Cry2ベースのクラスター形成システムにおいて、Wntシグナル伝達不活性型のモチーフ(PPPAPモチーフ, 活性型はPPPS/TPモチーフ)を添加する事でクラスターの解離が遅くなる事を発見。(Mammalian cells: HEK293T, NIH3T3)
Wntシグナル伝達の相手との不活性な弱い相互作用クラスターを長持ちさせているという感じか?
PIF3/PhyBシステム、split-intein、split-T7RNAPの三つを組み合わせ、赤色光によってT7RNAPの機能を活性化させ、下流代謝酵素定量的にコントロール可能なレベルで発現させる事に成功。(Bacteria: E.coli)

Protein Engineering

タンパク質工学
Baker研がde novoで開発したLOCKERシステムを使って、二つのCRISPR-Casを協同してDNAに結合させる仕組み(Co-LOCKER: scRNAに結合するPCPにKEYをつないだもの(上流) + ComにCAGEをつないだもの(下流)、転写ON因子はOpened-CAGEの結合相手であるBcl2-VP64)を開発。(Yeasts: S.cerevisiae)
このスピードで実用化してるのえぐい。

CRISPR/Cas

クリスパー系
CRISPR-Cas12aのcrRNAの一部をDNAに変更する事でターゲットへの特異性を保ったまま塩基対形成に必要なエネルギーポテンシャルを変化させ、オフターゲット効果を抑える事に成功。
ターゲット配列の一塩基をRNAからDNAに変えるだけで特異性が4倍近くなっているサンプルもあり、DNAへの置換も考慮するとデザイン空間がかなり広がる。
gRNAの長さによって遺伝子編集、転写活性化、転写抑制の三種類の機能を同時に実現できるCas9-VPRを酵母で実装。(Yeasts: S.cerevisiae)

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
芳香族複素化合物を産生するための遺伝子群(ximBCDE, PcPT)を、副産物を抑制した株で発現させ、複数の代謝産物を合成することに成功。また、その一部をE.coliでも実装。(Bacteria: S.xiamenesis, E.coli)
微生物汚染が起きやすい環境(核酸の構成要素である窒素化合物、リン酸化合物が豊富)を必要とする工業的な発酵過程において、他の微生物が利用できないような化合物(窒素源としてformamide, リン酸源としてphosphite)に従属する株を開発。(Bacteria: B.subtilis)
微生物の代謝で広く使われるcartinineの検出のため、合成経路の中間産物であるcrotonobetaine反応性のTF(CaiF)を用いたバイオセンサーを開発。(Bacteria: E.coli)
データベースから選別したTrp代謝関連遺伝子、発現プロモーターから成るライブラリを作成し、ハイスループットにwetの実測データを取得した後、データを元にMLによる予測が可能である事を検証結果として示した。(Yeasts: S.cerevisiae)
学習させたMLのパラメータで別の代謝経路が作られればブレイクスルーになりそうだけど、代謝経路レベルの複雑度になると一つの代謝産物へのfittingは特異的過ぎる気もする。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
メチオニン要求性のL.lactis株をメチオニン誘導体のみを含む培地で生育し、メチオニン誘導体の非天然アミノ酸を生体細菌中に取り込んで利用させる事に成功。更に生体内で非天然アミノ酸(nisin)同士の化学結合や非天然アミノ酸残基における化学的蛍光標識を実装。(Bacteria: L.lactis)
メチオニン誘導体を利用させる手法に感心。
E.coliの細胞分裂に関わるFtsA-FtsZをリポソーム内で遺伝子からcell-free発現させる事で、リポソームの膜内側にリング状の繊維構造を構築し、リポソームの一部を突出させる事に成功。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
CRISPR-Cas9によって目的の遺伝子をショウジョウバエに導入し、各世代において食品添加可能な化学因子(RU486)によって導入した遺伝子を取り除くようなリコンビナーゼ活性を確率的に発生させる事で、集団が世代を減るにつれて人為的に導入した遺伝子ドライブの効果を取り除いていく事が出来る機構を構築。(Insects: D.melanogaster)
実用的には食害の対象になっている作物に自然に含まれている化学因子が必要となってくる
RNA-seqおよびATAC-seqデータから、各遺伝子座における遺伝子の発現レベルとアクセシビリティ(クロマチン状態がヘテロかどうか)を解析する事で、非モデル生物における外来遺伝子の導入部位を決定するワークフローを提案。(Yeast: K.phaffii)
企業等でニッチな生物種を扱う必要のある場面での研究可能性を拡げる。
P.putida KT2440において細胞膜外構造物を遺伝的に取り除いた系統株を作成し、細胞の動きがより活発になる、外的刺激に対して感度が増す、などの形質的変化を報告。(Bacteria: P.putida KT2440)
物理的な特徴を変化させるユニークな研究。物理的な効果の他に、代謝やシグナル伝達にどのような変化が起こるのかも気になるところ。

Computational Biology

ある程度複雑度の高い遺伝子論理回路において、適切に回路を設計しているにも関わらず発生する発現量の急な変化(誤作動, glitching)の原因を、SBOLを用いて特定。IPTGなどの誘導因子が回路のON/OFF切り替えを行なっている中で、ON->OFFへの以降が徐々にしか行われない内在的な要因に依る。

Bioinformatics

SBOLを用いて多細胞システムを表現する方法に関する提案。

Biology in general

fluoresceinなどの蛍光化合物をコントロールに用いて、プレートリーダーやフローサイトメトリーのキャリブレーションを行うためのRパッケージをまとめた。
生体内でリコンビナントタンパクのビオチン化を自発的に行えるようなシステムを開発し、ビオチン化タンパク質のマイクロアレイを高速化。
RFP-ランダム配列(24nt)-(開始コドンなし)GFPの人工オペロンを用いてGFP強度でスクリーニングを行い、GFP強度の低いものにはランダム配列部分にターミネーター様の二次構造を取りやすい配列が見られ、これをRTS(Ribosome Translation Structure)と名付けた。また、適度な熱力学的な安定度を持ったRTS下流の遺伝子(GFP)の翻訳再開始(リボソームがmRNAから解離せずにオペロン下流の次の遺伝子の翻訳を開始する)を助けている可能性がある事を示した。(Bacteria: E.coli)
構成的なアプローチで発見をしていくのがとても面白い。結果も面白いので追加検証に期待。