Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Aug 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
36報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
データベースや文献から同定したE.coliの遺伝子発現制御タンパク質86種に対してsaturation mutagenesisを行い、様々な生物学的機能を制御する110120種の変異体ライブラリを作成。ライブラリに対してwetのスクリーニングを行うことで、工業的に有用な化合物(イソプロパノールなど)への耐性を持つ変異体やそれらの化合物を高効率で合成する事のできる変異体を複数同定。(Bacteria: E.coli)
酵母における26種類の遺伝子制御カセット(コアプロモーター, エンハンサー, 5'UTR, 3'UTR)をバラバラに組み替えたライブラリ(~400,000)を作成し、発現量を定量&解析。定量データへのPCAから、コアプロモーターとエンハンサーについては、発現量への寄与のほとんどを一種類のPCで説明できることを示した。(Yeasts: S.cerevisiae)
大腸菌における細胞間シグナル因子とTFをデータベースから選別した後、大腸菌間で直交性の高い6種類のペア(因子/TF = DAPG/PhlF, Sal/NahR, IV/BajR, pC/RpaR, MMF/MmfR, NG/FdeR)をwetで決定し、その内1種類(pC/RpaR)を哺乳類細胞間および哺乳類細胞から大腸菌へのシグナル伝達に、2種類(DAPG/PhlF, Sal/NahR)を酵母大腸菌の間でのシグナル伝達に転用した。(Bacteria: E.coli, Yeasts: S.cerevisiae, Mammalian cells: HEK293T)
細胞種を跨いだ遺伝子発現誘導が可能に。遺伝子回路構築の次元が一段上がる。
dCas9を用いた3種のsgRNAの相互発現抑制系、また、dCas12を用いた3種のcrRNAの相互発現抑制系によるrepressilator回路。(Bacteria: E.coli)
ターゲットの遺伝子クラスター(bcmA - bcmG: antibiotic bicyclomycin)の機能(ファージ遺伝子上流に設置したρ依存ターミネーターの阻害)とファージ遺伝子の発現量を相関させる事で、phage-assited continuous evolution(PACE)を用いた遺伝子クラスターを丸ごと連続進化させる事に成功。(Bacteria: E.coli)
すごい、発現/翻訳制御関連のタンパクだったら何でも出来そう。
一定以上の温度によって発現するプロモーター(heat shock promoter)をヒトT細胞に導入し、集束超音波を介した非侵襲な熱供給による遺伝子発現誘導(サイトカイン分泌)をT細胞で実現。(Mammalian cells: Raji cells)

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
アミノ酸のC骨格を別の構造に置き換えた化合物をtRNA_fMetに添加する事で、N末端やC末端に化学修飾を受けたポリペプチドを合成。また、リボソーム変異体を用いてシクロブタン骨格を持つアミノ酸の伸長に低効率ながら成功。(in vitro)
人工セントラルドグマも見えてきた?

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
ヒト末梢血単核細胞(PMBCs)の溶解物(lysate)を用いて、cell-freeでのタンパク質発現を実証。(cell-free: mammalian)
青色光による発現制御が可能なYF1/FixJシステム(青色光->YF1のリン酸化->FixJのリン酸化->遺伝子発現)を用いて、cell-free発現系における時空間的なタンパク発現制御システムを構築。(cell-free: Bacterial)
pLight-mCherry(青色光でmCherryの発現ON)のコンストラクトだけ、YF1/FixJの量比と発現量変化のグラフが少し異なるのが興味深い。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
抗体ナノボディのループ構造部分に青色光反応性の構造変化を起こすAsLOV2ドメインを挿入し、青色光反応性のタンパク質(mCherry-nanobody)結合/解離ツールを実装。(Mammalian cells: HEK293T, NIH3T3)
ナノボディで一般的に同様の機能を実装できれば広い種類のタンパク質をターゲットに相互作用のoptogenetic制御が可能に。
酵母の細胞内タンパク質を可視化する方法として、細胞壁酵素(mannose, β-1,3-glucase)で分解した後、細胞質の固定、界面活性剤による膜の部分的な破壊、抗体による蛍光標識を行う、というものを提案。フローサイトメトリーによってハイスループットな量的データを取る事に成功。(Yeasts: S.cerevisiae)
タンパク質相互作用の精密な定量化だったり、色々出来そう。
青色光誘導型の細胞間接着(VVD: 450nm)と赤色/近赤外光誘導型の細胞間接着(Cph1: 660nm ON, 720nm OFF)を両方発現させて、それぞれの光を使った直交性の高い細胞のソートとクラスター形成が可能に。(Bacteria: E.coli)
5月にpMagの凝集出してたばかりでもう一段階上が出ている
植物ホルモンstrigolactoneのバイオセンサーとして、strigolactoneに結合して下流のシグナルを活性化させるDAD2タンパクにcpGFPをドメイン挿入したものをデザイン。(Bacteria: E.coli, Yeasts: S.cerevisiae)
バイオフィルム中で電気を産生する細菌種において、発生した電流密度と遺伝子発現量を同時に測定可能な機器および系統を開発。(Bacteria: M.atlanticus)

Protein Engineering

タンパク質工学
OleAチオレーゼのファミリー73種とその基質候補から作成した1095の基質-酵素ペアにおける酵素活性をスクリーニングし、データを用いて生化学的、物理的特徴から酵素活性の予測を行うMLモデルを作成。(Bacteria: E.coli)
作成したMLモデルを使った未知の基質デザイン等の論文も出ることに期待。
オンラインデータベース(UniProt)の情報を元にTransformerニューラルネットを訓練し、タンパク質に分泌性能与える70-105残基のsignal peptideをデザインし、この結果をwet実験で実証。(Bacteria: B.subtilis)
こういう研究がしたい
de novoデザインされたE/K coiled-coilモチーフ(αヘリックス1のEとαヘリックス2のKとの間のイオン結合と、1と2の接合面に存在する疎水性残基の疎水性相互作用に基づく)を元に、Sのリン酸化によってcoiled-coilの存在量を量的に制御できるデザインを提案。(in vitro)
脱リン酸を含めて可逆的に制御する機構も探索出来そう。

CRISPR/Cas

クリスパー系
Cas9に2つのCys残基を導入し、Cas9の生化学的な修飾(小分子、ポリマー、ssODN)を可能に。付加したssODNに対して目的のタンパクをコードする別のssODNをハイブリダイゼーションさせる事で、Cas9によるDNA切断時にノックインする遺伝子を同一の複合体から提供する事が出来る。(Mammalian cells: U2OS, MDA-MB-231, HEK-293T, HDFn)
タンパク質の化学修飾、タグ付けたり蛍光付加したり程度かと思っていたけど、こんなことまで出来るとは驚き。
AsCas12a/Cpf1を用いた特異性の高いDSBと、ssODNテンプレートと内在性の修復機構を利用した切断後修復により、iPS細胞における一塩基修復をオフターゲット率0%(修復率は1.8-7.5%)で実装。(Mammalian cells: MEN2B-specific iPSCs, DEB-specific iPSCs)
  • Chromosome drives via CRISPR-Cas9 in yeast
  • Authors: H. Xu, M. Han, S. Zhou, B.-Z. Li, Y. Wu & Y.-J. Yuan
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s41467-020-18222-0
  • Institution: Tianjin University, China
酵母の染色体においてDSBをセントロメア付近に一箇所導入すると染色体そのものが分解を起こすことを発見し、この性質を用いて有性生殖における染色体の選択的遺伝機構を開発。(Yeasts: S.cerevisiae)
セントロメア付近一箇所で良いというのが興味深い。交配の代わりに人工的に染色体を導入出来たら染色体の入れ替えも出来そう。
CRISPRを用いてE.coliの染色体中に合計8箇所のcrRNAを同時に挿入することに成功。(Bacteria: E.coli)
流石にプラスミドの形質転換と比較すると効率はあまり高くないが、複数の遺伝子カセットを組み合わせるには良い

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
遺伝子発現を多段階で制御するRas/Erkシグナル経路における各シグナルのinput-ouput関係を明らかにするため、Ras/Erkシグナル経路の下流(FOSプロモーター)で転写され、リアルタイムで自身の転写速度およびタンパク質分解速度をイメージング出来るツール(SynIEG: synthetic immediate-early gene)を利用。(Mammalian cells: NIH3T3)
rapamycin産生酵母株におけるrapamycin産生効率を向上させるために、dCas9による代謝副産物の抑制回路を内在性のQS回路に組み込み、効果を実証。(Yeasts: S.ramapycinicus)
T細胞CAR(chimeric antigen receptor)の抗原特異性を向上させるため、二種類の受容体をRR/EE zipperで二量体化した機構や、RR/EE zipper部分をFKBP/FBRに置き換えて人工的な誘導シグナルが存在する時のみ受容体機能をONにする機構を開発。(Mammalian cells: Nalm6, Jurkat)
大腸菌代謝経路の中から、候補となる酵素遺伝子に対してロバストネス解析を行なって研究室内進化において安定過ぎる経路を改変。その後約220日の研究室内進化で、生育に必要な炭素源をメタノールのみに依存する大腸菌株を開発。(Bacteria: E.coli)
ロバストネス解析によってある程度定量的に経路設計が出来ていて画期的。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
リポソーム(LUV)の内側で、遺伝子にコードされた酵素群を用いてリン脂質を合成し、膜構造を再構成する事に成功。リン脂質膜の構成に必要な二種類の化合物(phosphatidylethanolamine, phosphatidylglycerol)を合成する酵素群を、二つの独立した発現系(T7, SP6)で発現させて化合物の量比を上手く調節。(Bacterial cell-free)

Computational Biology

遺伝子論理回路を組み合わせる場合のデザインを決定するアルゴリズムを開発。
wetで未実装にもかかわらずACSに載る価値があるのかは疑問。

Bioinformatics

創薬研究などで機械学習を用いたin silicoスクリーニングで選別された化合物にfalse positiveが多い原因は、候補となる化合物群の構造的性質が目的の化合物に近すぎてアルゴリズムが偏った訓練を受けている事にあると主張し、目的の化合物と性質は似ているが構造的に無関係の化合物からなる"おとり"の訓練データを生成する方法を提出し、妥当性を検証。
ネガティブサンプルの重要性を説く面白い着眼点。
ハイスループットなアプタマーの配列-アフィニティデータ(HT-SELEXデータ)から、配列情報及び立体構造を元にアフィニティの高いアプタマーをランク付けし、共通する配列モチーフを予測。
こういったスクリーニングをwetの研究室で実践出来れば。
ファージの進化的工学において、グアニンのアルキル化を介した変異誘導によるdirected evolution手法を開発し、熱耐性を獲得した変異体を作成。(bacteriophage)
C. lingdahliにおいて、デアミナーゼdCas9による一塩基編集ツール(デアミナーゼによるC=>U変異が内在性の修復機構によるU=>T置換を引き起こす)を導入。これを利用して、酢酸合成経路の副経路に関わる酵素をナンセンス変異によってノックアウトし、酢酸合成効率を向上。(Bacteria: C.lingdahli)

General Biology / Biotechnology

磁界に反応して細胞膜のCaイオンチャネルを開閉するツールとして開発された、ferritin(細胞質で常磁性の凝集体を形成)-TRVP1(磁界に反応したferritinとの相互作用を介して開閉する膜チャネルタンパク)システムの作用機序を解明。(Mammalian cells: HEK293T)
細菌(M.smegmatis)における少数派のリボソームサブユニットが、標準的なリボソームとは異なる翻訳傾向を持つことを発見し、そうした傾向が鉄イオン不足下での細胞の生存に有利に働くことを示した。(Bacteria: M.smegmatis)
tRNAのスプライシング過程でイントロンの切り出しに関わるTSEN(tRNA splicing enconuclease)複合体を精製し、in vitroで機能を保つ事に成功。(in vitro)