Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Mar 2021)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
27報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
温度依存的に二量体を形成するTF(CI857)とPhIFを利用した温度センサー回路を実装した。温度を繰り返し変化させる事によるパターン形成をした他、細胞骨格と分裂に関わる遺伝子(mreB, ftsZ)を組み合わせた温度依存的な細胞形状の制御、代謝酵素の遺伝子クラスターを組み合わせた温度依存的な代謝経路の切り替えを実装した。
温度センサーだからこそ出来る事があると面白そう。
プラスミドやmRNAにタンパク質結合領域を組み込み、結合したタンパク質の蛍光量でvivoでのコピー数を定量化する手法を提案。プラスミドではTF(PhIF)の結合領域を、mRNAではターミネーターの上流にPP7ステムを組み込んだ。異なる複製開始点(pSC101, p15A, pColE1, pUC)について、プラスミドコピー数が共通して大ききバラつく事を指摘し、これが転写産物コピー数、タンパク質発現量のノイズにつながる事を示した。
複製開始点の定量的なデザインが出来そう。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
リボザイムベースのRNAバイオセンサーをvitroで進化させる手法において、リボザイムの自己切断をラウンドごとに修復する効率を向上させるようなプライマーをデザインし、進化効率及び選別精度を大きく上昇させた。進化後に得たバイオセンサーは酵母の生体でそのまま機能するほど高い特異性を持っていた。
SELEXの改良版のような感じ、候補の中から当たりを効率的に選べるのが強い。
Guanidineリボスイッチと蛍光アプタマー(Spinach2)を組み合わせたRNAバイオセンサーを設計した。組み合わせる領域をリボスイッチの立体構造から二箇所に決定して最適化を行なった後、6種類のGuanidineリボスイッチについて性能を比較した。
設計の各ステップでの論理展開が明快。
3種類のファージ(MS2, PP7, Qβ)のコートタンパク質と結合するRNA配列について、WTに変異を入れたライブラリをスクリーニングして親和性の高い変異を同定した。作成した変異体は、コートタンパクを用いたvivo(U2OS cell)での結合性を示した。また、CNNを訓練して、配列及び計算された二次構造から配列のタンパク質との結合性を予測するモデルを作成した。
予測モデルまで組めているので、in silicoデザイン出来ると良いなあ。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
人工細胞膜(GUV)内部に、Rac1-Pak1経路を模した微小管形成システムを再構成した。チューブリン重合を阻害するタンパク(Stathmin)の活性をリン酸化タンパク(AuroraB)で抑制し、この抑制機構をiLIDシステムで青色光応答的に制御した。
Cell-free系における、アンチセンスの一本鎖DNAを用いた翻訳阻害を実装した。応用例として、Cell-freeでのT7ファージ増幅系でコートタンパク質の翻訳を阻害すると、副次的にゲノム複製の効率が向上した。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
酵母におけるタンパク質凝集を可視化するため、凝集体の核となるタンパク質(MCP, LipPks1)によってタンパク質凝集を誘導した上で、凝集ストレスへの応答に関わるタンパク質を解析した。ストレス応答タンパクによって活性量が変化するプロモーターを同定し、そのプロモーター下流GFPを発現させる事で間接的な蛍光観察を可能にした。
オミクス解析もしていて、論理展開が丁寧。
青色光で活性化するATP->cAMP反応(bPAC)をP.aeruginosaに導入し、細菌の運動性を光の明暗で可逆的に制御した。
青色光誘導で細胞膜に結合する人工タンパク質(OptoPB)の膜結合様式をNMRや膜プラズモン法による解析で解明した。Rit1タンパク質の膜結合ドメインに存在する正電荷アミノ酸(LysやArg)が青色光照射によってLOVドメインから解離し、哺乳類細胞膜に存在する酸性リン脂質に結合する。
発色団の成熟がpHの影響を受けやすい蛍光タンパク質として、新たに赤色波長光を発するpHmScarletをデザインした。完成したpHmScarletを小胞体特異的に発現する膜タンパク(VAMP2)と繋げる事で、細胞のエキソサイトーシスを可視化する事に成功した。

Protein Engineering

タンパク質工学
E.coliにおけるタンパク質の分泌キャリア(OsmY)の変異体を作成し、OsmYの発現量および分泌効率を向上させた。OsmYに他のタンパク質(RFP, Lipase6B)を繋げるとそれらの分泌が確認された。
比較的自由な分泌機構が出来るとQSシグナルのような形で使えそう。
既存のcoiled-coilデザインの片方の鎖にリン酸化修飾部位(Ser)を導入し、リン酸化によるヘテロ二量体形成制御を可能にした。細胞膜にアンカーした単量体と遊離した単量体との結合が確認出来た他、それぞれの単量体を細胞膜アンカー(hybSnf7のN末端)と繋げる事で、ヘテロ二量体形成による細胞膜アンカーの強化を実証した。
coiled-coilをどう変異させるかの理由付けが明快で分かりやすかった。
T7RNApolにシチジンデアミナーゼ(PmCDA1またはTadA-TadA)を繋げてC:U変異を導入し、修復酵素(Msh6、Apn2)による塩基修復を誘導する事で、部位特異的なランダム変異を高効率で起こすシステムを構築した。
シチジンデアミナーゼを使っている影響でC>T変異が多いけど、実用上は問題ないとのこと。

CRISPR/Cas

クリスパー系
シチジンデアミナーゼ(APOBEC)とCas9を繋げた塩基編集システムに、DNA修復酵素(XRCC1)またはDNApolの塩基校正ドメイン(PB)を加え、C:G to G:C編集の特異性を向上させた。
ショウジョウバエでのCas9を用いた人工的な遺伝子伝播技術において、確率的にNHEJ経路修復が起こる事でsgRNAの特異性から外れてしまう問題があったが、恒常発現させるCas9を潜性致死(rab5, rab11, prosalpha2)または潜性不妊(spo11 ortholog)となる遺伝子付近に配置する事でNHEJ修復をある程度回避する事が出来た。
AsCas12aにおいて、DNAへのアクセシビリティヌクレオソームによって制御されている事を示した。求められた解離定数から、ヌクレオソームがCas12aのPAM配列認識とR-loopへの結合の両方を阻害している事を示した。一方でクロマチンの相分離による影響は小さかった。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
酵母におけるethyl acetateの産生を最適化するために、ターミネーター及びプロモーターによる発現量調節(ACS1/2, ALD6)、最終的にethyl acetateを生産する酵素(AATase)の選別、基質確保のための選択的経路の削減を行った。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
  • Engineering nucleosomes for generating diverse chromatin assemblies
  • Authors: Adhireksan, Zenita; Sharma, Deepti; Lee, Phoi Leng; Bao, Qiuye; Padavattan, Sivaraman; Shum, Wayne K; Davey, Gabriela E; Davey, Curt A
  • Journal: Nucleic Acids Research
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1093/nar/gkab070
  • Institution: Nanyang Technological University, Singapore
複数のヌクレオソームコアを繋いで構造体を作るような自己組織化DNA分子をデザインし、結晶構造解析によりその構造を示した。ヒストンに巻き付いたDNA同士が粘着末端を介してヌクレオソーム間を架橋する事で構造体を形成する。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
  • DIVERSIFY: A Fungal Multispecies Gene Expression Platform
  • Authors: Jarczynska, Zofia D; Rendsvig, Jakob K H; Pagels, Nichlas; Viana, Veronica R; Nødvig, Christina S; Kirchner, Ferdinand H; Strucko, Tomas; Nielsen, Michael L; Mortensen, Uffe H
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00587
  • Institution: Technical University of Denmark, Denmark
4種類のfungus種において、Cas9を用いた形質転換を可能にした。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
Transformerを用いたタンパク質配列の新たな表現学習方法としてevotuningを提案した。通常の事前学習の後に小規模なホモログのデータセットでfine-tuningを行い、fine-tuning後のモデルから得られた配列の表現を使って変異の影響を予測するためのLASSO-LARSを訓練する。また、学習後のTransformerのattentionを可視化すると、タンパク質の構造情報を含んでいる事が示唆された。
タスクごとのfine-tuning方法に選択肢を与える研究。ホモログのデータセットをどう集めるかがタスクによっては難しいかも。

Other Biology

S. aureusの低温ショックタンパクコード遺伝子(cspB, cspC)の5’UTRが、温度変化によって二次構造を変化させて高温(37℃)状態でRBSを二本鎖部分に畳み込んで発現制御を行なっている事を解明した。
そのままRNAスイッチとして移植出来そう。
E.coliの代謝経路を解析するため、代謝に関わる1513の遺伝子をCRISPRiでノックダウンし、CRISPRiの誘導からの時間的なOD変化を計測した。誘導後数時間でOD曲線に変化が生じるようなものは7遺伝子に過ぎず、多くの変動は誘導後8時間ほどで見られた。個別の解析結果から、こうしたが代謝産物による選択的なアロステリック制御(CarAB)、下流代謝産物によるネガティブフィードバック(MetE)、別の代謝経路下流での発現抑制(Gnd)に依る例をそれぞれ示した。
ChIP-seqとDNase I-seqの解析から、LuxRの結合モチーフを網羅的に同定した。また、同定したモチーフ配列結合したLuxRとの結晶構造解析から、LuxRのN末端のArgがDNAのマイナーグルーブに差し込まれて結合を安定化している事が分かった。
酵素(ketosteroid isomerase)の温度適応において、特定の一残基(D103 or S103)が水素結合の強度を変える重要な役割を担う事、この残機における置換が異なるタンパク質ファミリーの間で複数回獲得されたものである事を示した。