Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (Apr 2022)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
32報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
複数の炭素源(糖)が存在する環境におけるE.coliの嗜好性が、細胞の成長に起因する糖分子の拡散によって説明できるとの主張。数理モデルとlacオペロンを用いた実験による裏付けを行った。また、このモデルからE.coliは環境での最適な炭素源の選択を行っている事が説明できる。
拡散と成長速度の両方を考慮した遺伝子回路設計が出来ると面白そう。
Toehold switchを利用して、トリガーのRNAを入力信号とするパーセプトロン回路を実装した。二次構造を形成するswitchをニューロンのweight、トリガーRNAを入力と考えて3種類の入力に対するweighted sumの結果をGFP出力として構成した。また、anti-σ28を定常発現させ出力をσ28ファクターに置き換える事で閾値による出力の二値化を行った。
言葉遊びな部分はあるが、back propagation等の実装にも繋がりそうな気がするので面白そう。
Toehold switchとanti-sense trigger RNAを用いて2-input 2-outputの論理回路を実装した。また、各RNA要素とプロモーターとの距離によってkmやスイッチON時の発現量の最大値が変化した。
拡散や分解をうまく調整すれば振動やパターン形成も目指せそう。
luxオペロンのluxR-luxI間に存在するCRP(cAMPと複合体を形成しDNAに結合するタンパク)結合領域が、luxR側のプロモーター誘導機能を持つことを示した。10種類の異なるluxボックス配列に対してCRP結合領域を4つまでタンデム化し、幅広いレンジでの転写発現制御を実装した。
TF結合領域のタンデムの様な形で面白かった。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
SpinachアプタマーとFBP(fructose 1,6-bisphosphate)結合性アプタマーをテンプレートとしてSELEXを回し、FBPバイオセンサーを作成した。元のアプタマーからステムループとG4構造のデザインを部分的に決めた後、残りをランダム化してSELEXをかけた。得られたFBPバイオセンサーの応用として、ヒト細胞の解糖系の反応を蛍光計測した。
SELEXをうまく回すためのデザインの決め方が難しそう。
toehold switchにステムループを追加し、triggerRNA存在下でもステムが形成される様なデザインを行った。これにより翻訳ONswitchにおける構造の安定化と、翻訳OFFswitchのデザインを可能にした。
シンプルながら汎用性の高いデザインで面白い。通常のtoehold switchとのデザイン面での比較が気になるところ。
特定のRNA二次構造に結合するタンパク質(MCP, PCP)による翻訳制御機構に対して、対象の二次構造をとる様なRNA構造体を競合阻害剤として機能させる系を実装した。翻訳対象のアプタマーと競合阻害するRNAの濃度で翻訳量を調節可能。
翻訳量のモデリングも出来そう。
EternaのプレイヤーによってデザインされたRNA配列から、MCPがMS2構造に結合した時のみ作用するFMNアプタマーを実装した。Eternaからの提案と実測とを7ラウンド回した結果、30のデザインが熱力学に最良に近いON/OFF比を達成した。
ゲームデザインから長期で上手くやっていて強い。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
CRISPR/Cas12aとRT-RPAを用いたCOVID-19検出系について、BICを用いた回帰因子選択によって反応系のパラメータ(バッファー濃度や反応液量など)最適化を行った。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
K+蛍光センサーの結合親和性を向上させ、哺乳類細胞におけるK+濃度に適したセンサーの作成に成功した。初めにゲノムマイニングによって同定したE.coli由来のK+結合ドメインをmNeonGreen1に埋め込み、結合親和性の高い(Kd ~ 69 mM)センサーを作成した。その後、構造解析(NMR)とホモログとの比較(BLAST)から見出した結合活性領域に変異を導入し、二種類の変異体(Kd~138mM, Kd~96mM)を得た。これにより哺乳類細胞におけるK+の休止電位(140-150mM)に近いKdを達成し、HeLa細胞での実証を行った。
目的とデザインの流れが綺麗だった。活性部位を同定した時点でdirected evolutionをかけた場合との比較が気になった。
  • Ultrasound-controllable engineered bacteria for cancer immunotherapy
  • Authors: Abedi, Mohamad H; Yao, Michael S; Mittelstein, David R; Bar-Zion, Avinoam; Swift, Margaret B; Lee-Gosselin, Audrey; Barturen-Larrea, Pierina; Buss, Marjorie T; Shapiro, Mikhail G
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41467-022-29065-2
  • Institution: California Institute of Technology, USA
超音波振動によって生体マウスにおける組織特異的な遺伝子発現誘導を行い、がん腫瘍の成長抑制を非侵襲に行うことを可能にした。はじめに温度(42℃)依存性のリプレッサー(Tcl42)を用いて、遺伝子発現回路を作成した。その後、回路を導入したE.coliをマウスに注射し、in vivoで超音波を用いた遺伝子発現を実装した。
probioticsの新たな形で面白い。
  • A highly photostable and bright green fluorescent protein
  • Authors: Hirano, Masahiko; Ando, Ryoko; Shimozono, Satoshi; Sugiyama, Mayu; Takeda, Noriyo; Kurokawa, Hiroshi; Deguchi, Ryusaku; Endo, Kazuki; Haga, Kei; Takai-Todaka, Reiko; Inaura, Shunsuke; Matsumura, Yuta; Hama, Hiroshi; Okada, Yasushi; Fujiwara, Takahiro; Morimoto, Takuya; Katayama, Kazuhiko; Miyawaki, Atsushi
  • Journal: Nature Biotechnology
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41587-022-01278-2
  • Institution: RIKEN, Japan
従来の蛍光タンパク質と比較してphotostabilityが高く、明度も高い緑色蛍光タンパクStayGoldを開発した。一般にphotostability が高い蛍光タンパクを明るくするには発色団熟成でのO2利用を促す変異を加える必要があり、これが発色団の一重項or三重項励起状態への遷移を促進してしまう。StayGold作成にあたってはテンプレートのCU17Sに対して1残基のみの変異(V168A)で十分な明るさを達成できたため、明るさとphotostabilityの両方を満たす蛍光タンパクとなった。
なぜ1残基の、しかもV->Aという微妙な変異で明るくなったのか気になった。
  • Synthetic cells with self-activating optogenetic proteins communicate with natural cells
  • Authors: Adir, Omer; Albalak, Mia R; Abel, Ravit; Weiss, Lucien E; Chen, Gal; Gruber, Amit; Staufer, Oskar; Kurman, Yaniv; Kaminer, Ido; Shklover, Jeny; Shainsky-Roitman, Janna; Platzman, Ilia; Gepstein, Lior; Shechtman, Yoav; Horwitz, Benjamin A; Schroeder, Avi
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41467-022-29871-8
  • Institution: Technion, Israel
油脂膜の中に青色発光タンパク(Gaussia luciferase)の発現系を封入し、これをを光要求性の胞子形成を行うカビと共培養する事で、胞子形成を誘導した。その他にも、油脂膜にEL222を追加したフィードフォワード回路や、油脂膜外側にGlucを発現させ、iLIDのリクルートを行うシステムを実装した。
面白いけどストーリーがやや強引では。

Protein Engineering

タンパク質工学
天然のタンパク質が結合する金属イオンはイオン化傾向の高いCu2+やZn3+である事が多いが、Ni2+やCo2+とより強く結合するようなタンパク質を人工的に作成した。シトクロムに対してCysと3つのHisからなる金属イオン結合モチーフを複数導入し、異なる結合活性を持ったシトクロムを得た。結合モチーフを複数導入した事で、一分子のCu2+やZn3+への特異性を二分子のNi2+やCo2+が持つ協調的な結合が熱平衡的に上回るような結果となった。
プロトンポンプの機能を持つロドプシンチャネルに変異を加えてCl-センサーに変化させる方法について、進化的な情報を加味して理論的に変異選択する方法の開発。データベース上のロドプシンファミリーの配列群にDCA(direct coupling analysis)をかけ、進化的関連の強い残基ペアの検出と配列のファミリーらしさ(Hamiltonian score)を計算した。ロドプシンチャネルに機能変化を加えるためにはファミリーから逸脱する必要があるとの仮定から、進化的関連性の高い残基に対して最もHamiltonian scoreの変化が大きくなるような変異を施し、実験で効果(Cl-センサーとしての性能向上)を実証した。
理論的な変異導入手法で、MSA-Transformer等使ったらより広く使えそう。

CRISPR/Cas

クリスパー系
SpCas9のgRNAについて、tracrRNAとcrRNAのハイブリダイゼーション時に出来るバルジ領域の下流側がgRNAとしての特異性に寄与する事を明らかにした。これを元に内在性のmRNAを標的にしたtracrRNAのデザインを可能にし、SARS-COV-2のmRNAを検出する系を作成した。
gRNAのデザインの幅が広がって面白い。CRISPR/Cas周りだけ使った複雑な回路が出来そう。
ABA(abscissic acid)またはUVによって誘導可能なRNAのm6A修飾システムを実装した。システムはdCas13b-PYLとABI-METTL3から成り、ABA添加によってPYL/ABIのヘテロ二量体が形成されると部位特異的に結合したdCas13bへリクルートされたMETTL3がm6A修飾を行う。結果として、単独のdCas13b-METTL3よりは劣るが実用に十分な編集効率を得た。UVのシステムではDMNB(4,5-dimethoxy-2-nitrobenzyl)-caged ABAが用いられ、UV照射によってDMNBケージが解除される仕組み。既存のdCas編集システムを誘導可能にした形。UVの照射が2分間なので、CRY2等でヘテロダイマー部分を置き換えても使いやすそう。
SpyCas9のgRNA内に、RNAのミスマッチ結合を誘導するMBL(mismatch binding ligand)の結合モチーフを導入し、MBL添加によってCas9活性を制御する機構を実装した。in vitro、HeLa細胞それぞれで実装したほか、Cas9とgRNAをプラスミドで細胞へ導入した場合にも有効であることを示した。
MBLというのを初めて知った。応用の展開まで丁寧に検証されていて良かった。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、代謝酵素工学など
除草剤に使用されるGlyphosateは化学的な製法では有害物質が排出されるため、生物学的な産生方法の開発が求められている。glyphosateの前駆体となるAMP(aminomethylphosphanate)を酵母で生産するため、必要な酵素遺伝子クラスター(AlpGHIJKL)の同定、酵母への導入、RBSとプロモーターの最適化による律速反応の効率化を行った。
反応経路のどの部分をどの酵素が担っているかを解析する部分に対して配列/構造解析から解釈を与えられそう。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
銀ナノ粒子(AgNP)を架橋するペプチドの組成と濃度を変化させる事で、AgNPが自己組織化して形成するフラクタル構造の大きさ(20nm-2μm)が変化する事を示した。また、この仕組みを応用してSARS-CoV-2の主要プロテアーゼの活性を検出する系を構築した。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
PAM配列がNGの二塩基のみであるxCas9をPseudomonasに実装し、幅広いターゲット配列におけるA:T→G:C編集を可能にした。gRNAデザインツール(CRISPOR)とアミノ酸置換によるタンパク質活性変化予測ツール(SIFT)を組み合わせた応用例としてP. putidaにおける酵素のノックダウンによりmuconic acid産生を増加させた。また、非モデル系統株(P. chengduensis)に導入しPseudomonas一般に使用出来る可能性を示した。

CHO(Chinese Hamster ovarian)細胞において、定常発現/トランスフェクション時のプロモーターによる発現効率を比較した。デュアルレポーターシステムのFluc/Rluc比によるとウイルス由来のCMV-mlEが最も高発現。
CMVプロモーターってすごいんだなあ。
シアノバクテリア(Synechocystis sp. PCC6803)とE.coliの両方で機能する10種類のプラスミドを作成した。pSC101をバックボーンとして、Synechocystis内在性プラスミドのORFを導入した。
ORF以外の部分もまとめて導入しているようなので、その辺りの最適化を他の例だとどの様にしているのか気になった。

Miscellany

その他
IgGの糖鎖修飾を行う反応系を確立し、30以上の修飾酵素による糖鎖修飾を施した。カラムに固定したIgGに対して候補となる修飾酵素と最適化されたバッファー溶液を修飾する順番に入れる事で反応を段階的に行う事が可能。応用例として、IgGへの糖鎖修飾導入により熱安定性や結合親和性を変化させた。
  • Development of NanoLuc-targeting protein degraders and a universal reporter system to benchmark tag-targeted degradation platforms
  • Authors: Grohmann, Christoph; Magtoto, Charlene M; Walker, Joel R; Chua, Ngee Kiat; Gabrielyan, Anna; Hall, Mary; Cobbold, Simon A; Mieruszynski, Stephen; Brzozowski, Martin; Simpson, Daniel S; Dong, Hao; Dorizzi, Bridget; Jacobsen, Annette V; Morrish, Emma; Silke, Natasha; Murphy, James M; Heath, Joan K; Testa, Andrea; Maniaci, Chiara; Ciulli, Alessio; Lessene, Guillaume; Silke, John; Feltham, Rebecca
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2022
  • DOI: 10.1038/s41467-022-29670-1
  • Institution: The Walter and Eliza Hall Institute for Medical Research, Australia
Nanolucをターゲットにしたタンパク質分解誘導基質を作成し、既存のタンパク質分解システム(FKBP12が目標のdTAG, HaloTag7が目標のHaloPROTAC)との実験的な比較を行った。単純な分解速度と分解誘導でリクルートできるプロテアーゼの種類はdTAGが良かった。
Nanolucをルシフェラーゼとしても分解タグとしても使える様になるので便利そう。基質のコストが気になるところ。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
タンパク質の事前学習済みモデル(UniRep, SeqVec, ESM-1b, ESM-MSA, ProtBERT, ProtT5)から得られる表現ベクトルがタンパク質構造予測とファミリー分類タスクにどの程度応用できるかを比較評価した。各モデルからの表現を使ってMLP, ResCNN+BGRU, LightAttentionの何れかを学習した。また、ESM-1b, ESM-MSA, ProtT5を使ってアンサンブル学習すると殆どの評価でベストスコアを出した。
タンパク質の事前学習済みモデル(UniRep, SeqVec, ESM-1b, ESM-MSA, ProtBERT, ProtT5)から得られる表現ベクトルがタンパク質構造予測とファミリー分類タスクにどの程度応用できるかを比較評価した。各モデルからの表現を使ってMLP, ResCNN+BGRU, LightAttentionの何れかを学習した。また、ESM-1b, ESM-MSA, ProtT5を使ってアンサンブル学習すると殆どの評価でベストスコアを出した。 単独で使う場合はProtBERT以外のBERTはそれほど変わらなさそう。下流のNN構造も軽く試す分にはMLPで十分っぽい。
SMILESを入力に取る化合物の事前学習済みBERT(K-BERT)を新たに提案した。事前学習では入力化合物の原子の特徴(角度、芳香属性、水素原子、キラリティ)予測、化合物の特徴(MACCS fingerprints)予測、同一化合物の異なるSMILES表現を近付ける対照学習、3つを行った。応用例として薬剤化合物予測や化合物の特徴予測を行った。
Ablation studyもしてあって、事前学習法として面白かった。

Deep Learning

深層学習を使ったバイオインフォ系のタスク
異なる生物種にわたって減数分裂時の組み換えホットスポットを予測し、予測に重要なの生物学的特徴(PRDM9結合モチーフ ヒストン修飾 GC含有率)を抽出出来る深層学習モデルを開発した。深層学習の構造はCNN, GRU, attentionからなる。訓練後のモデルで計算した塩基ごとの重要度を連続的な信号(分布)に変換し、ローパスフィルタをかけてモチーフを抽出する。既存のモデルと異なり、ローパスフィルタの係数によって可変長のモチーフ抽出が可能。
NGSで使用するプライマーのデザインを焼きなまし法によって自動化&高効率化し、プライマー同士のハイブリダイゼーション形成を大幅に削減した。

Biology in general

E.coliの電子伝達系についてシステム生物学的な解析を行った。E.coliで四種類のプロトンポンプ欠損株を作成し、増殖速度が一定になるまで研究室内進化を行った後、全ゲノム解析、プロテオーム解析から進化に寄与した遺伝子や代謝経路を同定した。結果として全ての株は近い増殖速度(~0.87/hour)に至り、代謝経路の流量を最適化する形でH+/ATP比が10/3に保たれた。
テーマもアプローチも面白かった。構成的に再現できたら更に面白そう。
天然の配列において非AUG開始コドンの嗜好性の順位はCUG>GUG>UUGである事が知られていたが、Uをψに置き換えることでGUG, UUGの嗜好性が向上し、Cに5mC修飾を施すことでCUGの嗜好性が低下した。また、MDシミュレーションによって修飾前後の開始コドンとアンチコドンとの塩基対形成の動態を解析し、実験結果を裏付けた。
KaiCタンパクのS431とT432それぞれのリン酸化/脱リン酸化状態における四種類の結晶構造を解いた。天然のKaiCは四種類の状態を振動するが、得られた構造を元に作成したT432V変異体はS431のリン酸化/脱リン酸化のみで振動することを示した。これらの事から、431番残基はリズム性能に対して、432残基はリズムの概日性に対しての自然選択の結果である事が示唆された。
面白かった。