Synbio, Bioengineering, Bioinfomatics関連の研究について書いたりするかもしれません。

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合成生物学論文メモ (May 2021)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
21報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
筆者らがC. ethensisのゲノムから遺伝子(672 CDS, 54 non-coding)を抽出&コドン最適化して作成したC. eth-2.0 からの発現と、元のC. ethensisの染色体からの発現とを比較し、より厳密な遺伝子アノテーションや遺伝子発現制御機構を明らかにした。ゲノムデザインにおける不確実性を減らすため、ターミネーター領域の追加、-35 boxやTSSが導入された場合のスクリーニング、連続したCDSを二つに分ける事による翻訳開始点(TIS)での変異導入回避、を提案し、C.eth-3.0を作成した。また、リボソームタンパク質(RpIS)の翻訳において、mRNAが構成するヘアピン構造が翻訳開始を促進する作用を持つことを示した。
ボトムアップな方法でゲノム全体の発現制御様式に示唆を与えていて良い。
E.coliのシグナル分子の分泌量をweightに見立て、クオラムセンシングを用いたニューラルネット様のネットワーク回路を構築した。入力シグナルを受け取りそれぞれ異なる量のシグナル分泌(weight)を行うsender株と、分泌されたシグナルを受け取り出力(EYFP)を計算するreceiver株とを混合培養することで、シグナル伝達の様子を4bit(4種類のsender株からのシグナルの足し算)で表現した。ランダムなsender株からスタートし、出力(EYFP)を見ながら各sender株の発現レベルを勾配法的に調節した。
言いたい事は分かるが無理矢理感が否めない。
複数のsplitリコンビナーゼ(Cre, Flp, PhiC31)の各ステップごとに、活性化したリコンビナーゼ自身の遺伝子を切り出す設計にする事で反応をカスケード化した。リコンビナーゼとCas9のgRNAとを並べて協調的に発現させる事でCas9のカスケード化にも成功した。
回路設計アイデアが面白い。
哺乳類細胞(CHO)の複数遺伝子発現ベクターにおいて、ベクター内での遺伝子の挿入位置によって発現効率が異なるという報告。
定性的には興味深い内容だが、定量化部分がやや雑な気も。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
トリガーとなる短鎖RNAによってON/OFFをアロステリックに切り替える事が出来るcrRNAを設計した。トリガーRNAがcrRNAと相補的に結合する事で、Casとの結合に重要な二次構造を完成させる/壊す事によりON/OFFを切り替える。
Toehold switchのデザインをcrRNAに適用したような感じで面白い。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
E.coliを人工半透膜に内包させた後の分解処理によって必要な分子のみを膜内に残す事で、無細胞発現系を低コストで作る手法を開発した。通常の無細胞発現系の13%のコストで55%の発現効率を達成した。
発現効率を向上させる余地はまだありそう。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
AsLOV2を循環化(circular permutation)させる事によりケージ構造の嗜好性を解消し、循環化なしでは不可能だったLOVドメインC末端側へのドメインの伸長を可能にした。作成したcpLOV2を用いてZdk2とのヘテロ二量体化、MLKLを用いたプログラム細胞死、CARの腫瘍抗原シグナル伝達、を青色光で誘導するシステムをそれぞれ実装した。
LOVドメインの使い辛さを比較的真似しやすい方法で解消していて影響が大きそう。

Protein Engineering

タンパク質工学
DNAとRNAの両方にシチジンデアミナーゼ活性を持つAPOBEC3Aにおいて、結晶構造から特定した核酸認識に重要な残基に変異を加える事で、RNAへの活性のみを示す変異体を作成した。
変異を加える残基の選定については書かれていたが、どうやって変異後のアミノ酸を選んだかはよく分からなかった。

CRISPR/Cas

クリスパー系
ゲノム解析の不足が原因で遺伝子ドライブ技術が開発されていなかったCulex種の蚊において、Cas9とgRNAを組み込むのに適切な座位を決定した。また、Culex種では相同組み換え修復(HDR)による遺伝子導入効率の低さも問題であったが、gRNAの構造部分に変更(1. ステムループのステム部分を4塩基対分伸長 2. TTTTをTTTCに変更)を加える事でHDRによる導入効率を向上させた。また、gRNAの構造に変化を加える同様の方法がショウジョウバエでも有効な事を示した。
遺伝子ドライブにおいて意図せず起こる体細胞遺伝子組み換えを定量化するため、誘導された変異と体細胞で起こるNHEJとを区別して蛍光タンパクを発現するCopyCatcherシステムを提案した。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
脂肪酸の一種であるオクタン酸の酵母での生合成量を向上させるため、脂肪酸によって発現誘導されるプロモーター(pPDR12)とON/OFF倍率を増幅する回路を組み込んだ系統株をFACSにかけ、高い生合成量を持つ変異を得た。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
光誘導型の二量体化(FKBP/FRBとdRap)によるキネシンの膜局在を用いて、人工細胞膜内に特定の微小管ネットワークを形成する方法を提案。キネシンによる誘導を加えない場合は時間と共に膜に沿った球状の微小管ネットワークが見られ、キネシン誘導を加えると方向性のある紡錘型のネットワークが形成された。
自己組織化を誘導するタイプの設計は難しそうだがワクワクする。
4種類の人工核酸合成ポリメラーゼ(FANA/ANA, HNA, TNA, PMT)について、基質特異性、熱耐性、逆転写酵素活性の観点から評価を行った。
複数のツールを比較評価する良い論文。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
C. elegansの腸内に、RNA断片を発現する遺伝子回路を組み込んだE.coliを導入し、C.elegansゲノムへのRNA干渉によるGFP発現抑制(リコンビナントgfp)、筋収縮誘導(unc22)、脂肪蓄積抑制(sbp-1)を可能にした。また、E.coliからのRNA発現に論理回路を組み込むとC. elegansの形質の変化も論理回路的に制御する事が出来た。
特にプロモーター未知の原核生物種において、RNA-seqデータから発現量の多いプロモーターを同定する計算フレームワークを開発した。異なる実験条件でのRNA-seqから得た発現量の情報から遺伝子をランク付けした後、上位の遺伝子の上流300bp以内のnon-CDS領域から-35/-10領域のコンセンサスモチーフを探索した。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
タンパク質配列の大規模データで事前学習済みのモデル(Seqvec: ELMoベース, ProtBert: BERTベース, ProtT5: T5ベース)からの出力表現を使って一層のattentionを学習させると、10クラスのタンパク質局在部位予測問題において、既存モデルの予測性能を上回った。
普通のfine-tuningとの比較もして欲しいところ

Other Biology

Vibrio Phage PhiVC8に含まれるPurZのホモログ配列解析および結晶構造解析から、このタンパク質が三つ目のプリン塩基(2-aminoadenine)合成経路に関わっている事を示した。

合成生物学論文メモ (Mar 2021)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
27報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
温度依存的に二量体を形成するTF(CI857)とPhIFを利用した温度センサー回路を実装した。温度を繰り返し変化させる事によるパターン形成をした他、細胞骨格と分裂に関わる遺伝子(mreB, ftsZ)を組み合わせた温度依存的な細胞形状の制御、代謝酵素の遺伝子クラスターを組み合わせた温度依存的な代謝経路の切り替えを実装した。
温度センサーだからこそ出来る事があると面白そう。
プラスミドやmRNAにタンパク質結合領域を組み込み、結合したタンパク質の蛍光量でvivoでのコピー数を定量化する手法を提案。プラスミドではTF(PhIF)の結合領域を、mRNAではターミネーターの上流にPP7ステムを組み込んだ。異なる複製開始点(pSC101, p15A, pColE1, pUC)について、プラスミドコピー数が共通して大ききバラつく事を指摘し、これが転写産物コピー数、タンパク質発現量のノイズにつながる事を示した。
複製開始点の定量的なデザインが出来そう。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
リボザイムベースのRNAバイオセンサーをvitroで進化させる手法において、リボザイムの自己切断をラウンドごとに修復する効率を向上させるようなプライマーをデザインし、進化効率及び選別精度を大きく上昇させた。進化後に得たバイオセンサーは酵母の生体でそのまま機能するほど高い特異性を持っていた。
SELEXの改良版のような感じ、候補の中から当たりを効率的に選べるのが強い。
Guanidineリボスイッチと蛍光アプタマー(Spinach2)を組み合わせたRNAバイオセンサーを設計した。組み合わせる領域をリボスイッチの立体構造から二箇所に決定して最適化を行なった後、6種類のGuanidineリボスイッチについて性能を比較した。
設計の各ステップでの論理展開が明快。
3種類のファージ(MS2, PP7, Qβ)のコートタンパク質と結合するRNA配列について、WTに変異を入れたライブラリをスクリーニングして親和性の高い変異を同定した。作成した変異体は、コートタンパクを用いたvivo(U2OS cell)での結合性を示した。また、CNNを訓練して、配列及び計算された二次構造から配列のタンパク質との結合性を予測するモデルを作成した。
予測モデルまで組めているので、in silicoデザイン出来ると良いなあ。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
人工細胞膜(GUV)内部に、Rac1-Pak1経路を模した微小管形成システムを再構成した。チューブリン重合を阻害するタンパク(Stathmin)の活性をリン酸化タンパク(AuroraB)で抑制し、この抑制機構をiLIDシステムで青色光応答的に制御した。
Cell-free系における、アンチセンスの一本鎖DNAを用いた翻訳阻害を実装した。応用例として、Cell-freeでのT7ファージ増幅系でコートタンパク質の翻訳を阻害すると、副次的にゲノム複製の効率が向上した。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
酵母におけるタンパク質凝集を可視化するため、凝集体の核となるタンパク質(MCP, LipPks1)によってタンパク質凝集を誘導した上で、凝集ストレスへの応答に関わるタンパク質を解析した。ストレス応答タンパクによって活性量が変化するプロモーターを同定し、そのプロモーター下流GFPを発現させる事で間接的な蛍光観察を可能にした。
オミクス解析もしていて、論理展開が丁寧。
青色光で活性化するATP->cAMP反応(bPAC)をP.aeruginosaに導入し、細菌の運動性を光の明暗で可逆的に制御した。
青色光誘導で細胞膜に結合する人工タンパク質(OptoPB)の膜結合様式をNMRや膜プラズモン法による解析で解明した。Rit1タンパク質の膜結合ドメインに存在する正電荷アミノ酸(LysやArg)が青色光照射によってLOVドメインから解離し、哺乳類細胞膜に存在する酸性リン脂質に結合する。
発色団の成熟がpHの影響を受けやすい蛍光タンパク質として、新たに赤色波長光を発するpHmScarletをデザインした。完成したpHmScarletを小胞体特異的に発現する膜タンパク(VAMP2)と繋げる事で、細胞のエキソサイトーシスを可視化する事に成功した。

Protein Engineering

タンパク質工学
E.coliにおけるタンパク質の分泌キャリア(OsmY)の変異体を作成し、OsmYの発現量および分泌効率を向上させた。OsmYに他のタンパク質(RFP, Lipase6B)を繋げるとそれらの分泌が確認された。
比較的自由な分泌機構が出来るとQSシグナルのような形で使えそう。
既存のcoiled-coilデザインの片方の鎖にリン酸化修飾部位(Ser)を導入し、リン酸化によるヘテロ二量体形成制御を可能にした。細胞膜にアンカーした単量体と遊離した単量体との結合が確認出来た他、それぞれの単量体を細胞膜アンカー(hybSnf7のN末端)と繋げる事で、ヘテロ二量体形成による細胞膜アンカーの強化を実証した。
coiled-coilをどう変異させるかの理由付けが明快で分かりやすかった。
T7RNApolにシチジンデアミナーゼ(PmCDA1またはTadA-TadA)を繋げてC:U変異を導入し、修復酵素(Msh6、Apn2)による塩基修復を誘導する事で、部位特異的なランダム変異を高効率で起こすシステムを構築した。
シチジンデアミナーゼを使っている影響でC>T変異が多いけど、実用上は問題ないとのこと。

CRISPR/Cas

クリスパー系
シチジンデアミナーゼ(APOBEC)とCas9を繋げた塩基編集システムに、DNA修復酵素(XRCC1)またはDNApolの塩基校正ドメイン(PB)を加え、C:G to G:C編集の特異性を向上させた。
ショウジョウバエでのCas9を用いた人工的な遺伝子伝播技術において、確率的にNHEJ経路修復が起こる事でsgRNAの特異性から外れてしまう問題があったが、恒常発現させるCas9を潜性致死(rab5, rab11, prosalpha2)または潜性不妊(spo11 ortholog)となる遺伝子付近に配置する事でNHEJ修復をある程度回避する事が出来た。
AsCas12aにおいて、DNAへのアクセシビリティヌクレオソームによって制御されている事を示した。求められた解離定数から、ヌクレオソームがCas12aのPAM配列認識とR-loopへの結合の両方を阻害している事を示した。一方でクロマチンの相分離による影響は小さかった。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
酵母におけるethyl acetateの産生を最適化するために、ターミネーター及びプロモーターによる発現量調節(ACS1/2, ALD6)、最終的にethyl acetateを生産する酵素(AATase)の選別、基質確保のための選択的経路の削減を行った。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
  • Engineering nucleosomes for generating diverse chromatin assemblies
  • Authors: Adhireksan, Zenita; Sharma, Deepti; Lee, Phoi Leng; Bao, Qiuye; Padavattan, Sivaraman; Shum, Wayne K; Davey, Gabriela E; Davey, Curt A
  • Journal: Nucleic Acids Research
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1093/nar/gkab070
  • Institution: Nanyang Technological University, Singapore
複数のヌクレオソームコアを繋いで構造体を作るような自己組織化DNA分子をデザインし、結晶構造解析によりその構造を示した。ヒストンに巻き付いたDNA同士が粘着末端を介してヌクレオソーム間を架橋する事で構造体を形成する。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
  • DIVERSIFY: A Fungal Multispecies Gene Expression Platform
  • Authors: Jarczynska, Zofia D; Rendsvig, Jakob K H; Pagels, Nichlas; Viana, Veronica R; Nødvig, Christina S; Kirchner, Ferdinand H; Strucko, Tomas; Nielsen, Michael L; Mortensen, Uffe H
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00587
  • Institution: Technical University of Denmark, Denmark
4種類のfungus種において、Cas9を用いた形質転換を可能にした。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
Transformerを用いたタンパク質配列の新たな表現学習方法としてevotuningを提案した。通常の事前学習の後に小規模なホモログのデータセットでfine-tuningを行い、fine-tuning後のモデルから得られた配列の表現を使って変異の影響を予測するためのLASSO-LARSを訓練する。また、学習後のTransformerのattentionを可視化すると、タンパク質の構造情報を含んでいる事が示唆された。
タスクごとのfine-tuning方法に選択肢を与える研究。ホモログのデータセットをどう集めるかがタスクによっては難しいかも。

Other Biology

S. aureusの低温ショックタンパクコード遺伝子(cspB, cspC)の5’UTRが、温度変化によって二次構造を変化させて高温(37℃)状態でRBSを二本鎖部分に畳み込んで発現制御を行なっている事を解明した。
そのままRNAスイッチとして移植出来そう。
E.coliの代謝経路を解析するため、代謝に関わる1513の遺伝子をCRISPRiでノックダウンし、CRISPRiの誘導からの時間的なOD変化を計測した。誘導後数時間でOD曲線に変化が生じるようなものは7遺伝子に過ぎず、多くの変動は誘導後8時間ほどで見られた。個別の解析結果から、こうしたが代謝産物による選択的なアロステリック制御(CarAB)、下流代謝産物によるネガティブフィードバック(MetE)、別の代謝経路下流での発現抑制(Gnd)に依る例をそれぞれ示した。
ChIP-seqとDNase I-seqの解析から、LuxRの結合モチーフを網羅的に同定した。また、同定したモチーフ配列結合したLuxRとの結晶構造解析から、LuxRのN末端のArgがDNAのマイナーグルーブに差し込まれて結合を安定化している事が分かった。
酵素(ketosteroid isomerase)の温度適応において、特定の一残基(D103 or S103)が水素結合の強度を変える重要な役割を担う事、この残機における置換が異なるタンパク質ファミリーの間で複数回獲得されたものである事を示した。

合成生物学論文メモ (Feb 2021)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
33報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
E.coli発現系において、成熟したmRNAのみからタンパク質発現が起こるようなQCシステムを実装。Toehold switchのトリガー鎖を同一のmRNAの3’末端付近に組み込み、RBSを含むtoehold領域に対してcisに作用させる事で、mRNAの全長が転写された場合に初めてRBSが露出するように設計した。
sfGFPだけを発現させた場合はQCシステムと通常のtoehold switchとで発現量は90%ぐらいで済んでいるが、どこまで遺伝子を長く出来るのかは気になるところ。
古典的な双安定系のモデルには環境中の栄養分の獲得競争が考慮されておらず、これを考慮に入れると片方の安定点に収束する挙動が見られる事を実験とモデルの両方で示した。また、双安定系のモジュールを二種類の系統株に分散させると競争による影響が緩和される事を示した。
dCasによる発現制御と回路構成の工夫をによってグルコースセンサーの性能を向上させた。感受システムに関わるCAP(catabolism activation protein)やsgRNAをdCasで制御した上で、下流のsfGFP発現にT7RNAPをかませた。
dCasを使った制御はデザイン空間が広くて最適化が大変そう。
ネガティブフィードバックループの組み合わせによって、三つの安定点を持つ系を構築した。安定性解析から、ヒル係数、分解速度、活性化状態を変化させる閾値が特に安定性に関わるパラメータである事を示した。
wetでの実装も楽しみ。
B. subtilisにおけるN末端10残基のコドン最適化によって、最大で10倍ほどの発現(翻訳)効率の向上を実現した。
結構変わるものですね。
E.coliにおけるオペロン各部の配列とmRNAの安定度との対応を、RT-qPCRとRNaseを用いて網羅的かつ定量的に解析した。
他の論文と合わせて大きめの定量的な予測モデルに成り得そう。
オーキシンで誘導されるユビキチン化&分解システム(TIR1/AID peptide tag)を改善(SKP1-TIR1/Cup1p-AID peptide tag)して導入し、酵母でのモノテルペン合成経路における選択的な酵素(Erg20p)分解を可能にした。これにより、酵母の成長に重要なErg20pの存在量を生育時と代謝合成時とで分別し、代謝効率を上昇させた。この他にも、Hxk2pの選択的分解によってグルコース存在時に好気呼吸を継続させる事、Acc1pの選択的分解によって代謝合成を維持しながら細胞分裂を阻害する事に成功した。
ユビキチン化でのタンパク質分解ってどのレベルまで壊すのだろうか。無細胞系で調節可能な環境収容力として使えたりしたら面白そう。
  • Model-guided design of mammalian genetic programs
  • Authors: Muldoon, J J; Kandula, V; Hong, M; Donahue, P S; Boucher, J D; Bagheri, N; Leonard, J N
  • Journal: Science Advances
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1126/sciadv.abe9375
  • Institution: Northwestern University, USA
COMETシステムによる転写制御とインテインによる翻訳後制御を組み合わせ、哺乳類細胞における複雑な遺伝子回路を構築した。通常の論理回路の組み合わせの他、バックグラウンドの発現を抑制することによる出力感度調節、FKBP/FRBを導入したバンドパスフィルタ回路を実装した。
これはシンプルに凄い。COMETシステム=>合成生物学論文メモ(Feb. 2020)

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
GUV中にR. sphaeroids由来の膜タンパク(光駆動型の電子伝達系反応中心とプロトンポンプ)とATP合成酵素を含む膜構造をつくり、ATP合成系を再構成した。また、合成したATPを使った転写反応も誘導した。
合成したATPを使った下流の反応が盛んに出来てくると大分再構成の幅が広がりそう。
マイクロ流路でドロップレットに閉じ込めたcell-free発現系を使ったdirected evolution法を開発。
ドロップレットを蛍光強度で分別する部分が改善できれば良いが、マイクロ流路かつcell-freeとなるとコスト的にどうなんだという疑問はある。
  • A Streptomyces venezuelae Cell-Free Toolkit for Synthetic Biology
  • Authors: Moore, Simon J; Lai, Hung-En; Chee, Soo-Mei; Toh, Ming; Coode, Seth; Chengan, Kameshwari; Capel, Patrick; Corre, Christophe; de Los Santos, Emmanuel Lc; Freemont, Paul S
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00581
  • Institution: Imperial College London, UK
反応液の組成、発現制御因子の最適化を行い、S. venezuelaeのcell-free発現系を確立した。高いGC%の遺伝子も発現可能であり、複数段階に及ぶ酵素反応も起こせる事を示した。
リガンド存在下でDNAの増幅が起こり、蛍光標識したDNAプローブの検出量を感知するバイオセンサーを開発した。リガンドの結合によってTFのDNAへの結合が阻害される事で、制限酵素(HgaI)がDNAを切断し、露出した粘着末端をプライマーとして、プローブ配列のPCRを行う。
DNAのハイブリダイゼーションを使う事でRNAを介さずにバイオセンサーを作っていて面白い。保存もし易そう。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
青色光で制御されるEL222ベースの遺伝子回路において、光の強度と照射時間を入力に取った出力結果をモデル化し、wetの結果との一致を示した。
S. melilotiにおいて、青色光誘導型のTF(EL222)を導入した転写制御によってバイオフィルム形成を担うEPS(epolysaccharide)の産生、及びそれに伴うバイオフィルム形成をコントロールした。

Protein Engineering

タンパク質工学
  • Computation-guided optimization of split protein systems
  • Authors: Dolberg, Taylor B; Meger, Anthony T; Boucher, Jonathan D; Corcoran, William K; Schauer, Elizabeth E; Prybutok, Alexis N; Raman, Srivatsan; Leonard, Joshua N
  • Journal: Nature Chemical Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41589-020-00729-8
  • Institution: Northwestern University, USA
Split TEVプロテアーゼのON/OFF活性を改善する変異を探索する為に、Rosettaを用いた自由エネルギー計算から効率的な変異候補を選択。
確実に非効率なものは部分的に取り除けているが、まだまだ当たりの予測は難しそう。
膜透過ペプチド(CPP: cell-penetrating peptide)シグナルのライブラリから、E.coliに対して透過性が高く細胞毒性が低いものを選定した。選別したシグナルペプチドは、バッファー組成によっては別の細菌(Methylomonas)でも膜透過性を示したが、哺乳類細胞(HEK293, CHO)では膜透過性、細胞毒性共にE.coliでの値との相関が低かった。
データがもう少し大きければin silicoペプチド設計のターゲットとして向いていそう。
  • De novo design of transmembrane β barrels
  • Authors: Vorobieva, Anastassia A; White, Paul; Liang, Binyong; Horne, Jim E; Bera, Asim K; Chow, Cameron M; Gerben, Stacey; Marx, Sinduja; Kang, Alex; Stiving, Alyssa Q; Harvey, Sophie R; Marx, Dagan C; Khan, G Nasir; Fleming, Karen G; Wysocki, Vicki H; Brockwell, David J; Tamm, Lukas K; Radford, Sheena E; Baker, David
  • Journal: Science
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1126/science.abc8182
  • Institution: University of Washington, USA
βバレル構造の膜貫通型タンパクをde novoデザインしたというBaker研の論文。
一つ一つのデザインステップが理論的のどの程度妥当で再現可能なのかよく分からない、解説求む。

CRISPR/Cas

クリスパー系
dCas9に変異型ヒストン修飾タンパク(dMSK1: MSK1のN末端を除去したもの)を繋ぎ、H3S10とH3S28のリン酸化を誘導する仕組みを開発。これによってエピジェネティック制御を介した一部のMSK1ターゲット遺伝子(BMP2, GDF6)の転写活性化を可能にした他、エンハンサーやプロモーターへのgRNAを設計する事で非天然ターゲット(OCT4, MYOD)の比較的特異性に高い転写活性化を行った。また、ChIP-seq解析からH3S28のリン酸化が下流の転写活性の原因となる事、H3K27のアセチル化を間接的に誘導する事を示唆した。
どの制御因子がデザイン上重要かが分かるようになるとより面白い。
遺伝子クラスターをプラスミドとして導入する簡便な手法(CAPTURE)を提案した。生体から抽出したゲノムからCas12aで対象の遺伝子クラスターを切り出し、PCRで切り出した断片の両端にプラスミドに必要な要素(origin, 抗生物質マーカー, リコンビナント部位: loxP)を添加し、Creリコンビナーゼを使って細胞内で円環化する。
バイオインフォで遺伝子クラスター特定->検証の流れが簡単になりそう。
CRISPR-Cas9を使ったゲノム編集において、細菌由来の一本鎖DNA結合タンパク(SSAP)を導入する事で編集効率が上がり、オフターゲット効果を抑制した。SSAPを編集部位にリクルートする方法として、sgRNAにMS2CP結合配列を導入し、SSAPをMS2CPと繋げて発現させた。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
  • A glucose meter interface for point-of-care gene circuit-based diagnostics
  • Authors: Amalfitano, Evan; Karlikow, Margot; Norouzi, Masoud; Jaenes, Katariina; Cicek, Seray; Masum, Fahim; Sadat Mousavi, Peivand; Guo, Yuxiu; Tang, Laura; Sydor, Andrew; Ma, Duo; Pearson, Joel D; Trcka, Daniel; Pinette, Mathieu; Ambagala, Aruna; Babiuk, Shawn; Pickering, Bradley; Wrana, Jeff; Bremner, Rod; Mazzulli, Tony; Sinton, David; Brumell, John H; Green, Alexander A; Pardee, Keith
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41467-020-20639-6
  • Institution: University of Toronto, Canada
バイオセンサーのアウトプットとして蛍光の代わりにグルコースを産生させるシステムを提案。Toehold switchによる核酸の検出や、TF(TetR)回路による小分子検出をグルコース測定器によって可能にした。
発想としては面白いが、バックグラウンドの除去にも苦労しているようだし蛍光タンパクの代替として使う意味があるかは不明。
筆者ら開発のSUPRA CAR(免疫細胞の受容体をロイシンジッパーでsplitして、膜での刺激需要と細胞内シグナルを担うzipCARと水溶性で抗原認識部位を付加したzipFvとに分割、zipFvの添加によって免疫原性を制御)を種々の免疫細胞で利用できるように拡張した。複数種の免疫細胞が関わる論理回路として、ANDゲートやzipCARの膜内側のシグナルを阻害性のものに変更する事でNOTゲートを実装し、論理回路的な免疫制御を可能にした。
やり方はシンプルだけど実際に出来るところが凄い。免疫細胞同士の特異性の高い細胞間コミュニケーションが設計できたりすると面白い。
TF(ArgR)に対して囮となる結合部位を導入する事で、代謝産物(アルギニン)濃度による代謝経路へのネガティブフィードバックを緩和し、代謝産生量を向上させた。また、囮を導入した株は通常のものと比較して変異耐性が高かった。
小分子(erythromycin A)バイオセンサーにおいて、TF(MphR)による感受システムとは別に、リン酸化(MphA)によって小分子を細胞内に捕捉し、センサーの性能を向上させた。
QSの性能向上も似たような方法で出来そうだが、既にありそうでもある。相分離的な隔離とも相性が良さそう。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
直行性のある6種類のcoiled-coilを各辺に持った三角錐のタンパク質構造を設計した。底面の3辺でcoiled-coilを片方のヘリックスだけにすると、三角錐同士がcoiled-coil結合して六面体を形成する事も出来、TEVによってコイルの一部を切り出して六面体形成を誘導する事も出来た。
タンパク質折り紙もDNAみたいになってきて面白い。タンパク質の方が特異性も高く他のタンパク質との相互作用を組み込めて、色々出来そう。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
非対称な細胞分裂を行う細菌のタンパク質(C. crescentusからPopZ, B. subtitlesからDivIVA)をE. coliに導入し、E. coliにおける非対称な細胞分裂を実装した。PopZの局在中心に集まるsplit T7-RNAPを導入し、同一の親細胞から異なるamp耐性を持った娘細胞が生じる事を示した。
他の制御因子と組み合わせて複数段階で分化が起こせたりしたら面白そう。

Computational Biology / Bioinformatics

Representation Learning

核酸アミノ酸配列の表現学習
BERTを使って取り出した塩基ごとの潜在表現をCNNにかけて、エンハンサーの予測を行った。
CLSトークンを使わずに分類器にかけている辺りBERTだけでは上手くいかなかったっぽいが、単純な分散表現学習器として使ってしまうのは勿体無い気も。
CRISPR-Cas9で使うsgRNA-DNAの配列情報からオフターゲット効果を予測するタスクにおいて、sgRNAとDNAの配列をそれぞれone-hotで埋め込んで8×配列長として直接入力すると、種々の深層学習モデルで精度が向上した。
細胞種ごとのlncRNA細胞内局在を予測するモデルを構築。Gloveを使ってlncRNAの潜在表現を取得し、CNN+biLSTMへ流し、MLPで分類した。学習後のCNNを解析(integrated gradientを使用)すると、ATが細胞質への局在を、Cが核への局在に寄与する事を示唆した。

合成生物学論文メモ (Jan 2021)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
27報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
二種類の人工TF(Gal4-splitABA binding domain/split ABA binding domain-VP16, dCas9-splitGA binding domain/splitGA binding domain-VPR)を段階的に調節する回路により、酵母における内在性の発現ノイズ、及び発現量の分散を調整可能に。
発現量の平均と分散をコントロールする発想があったか。
E.coliのTF誘導型プロモーターの構造(配列、プロモーター-オペレーター間距離、UPエレメント)による発現量変化を解析、TF結合の熱力学的な数理モデルの構築を行い、最適な構造を探索した。
地味だけど良い研究。
C.glutamicusにおいて、プロモーターとbicistronic RBSとの組み合わせで精密な発現量制御を行い、Arg合成経路の最適化を行った。
bcRBSというのを知らなかったけど、割と便利そう。
B.subtilis由来のp-coumaric acid応答性のTF(PadR)を導入したバイオセンサーを作成し、B.subtilisでターゲットプロモーターと遺伝子の間に存在する二つの遺伝子(yveF, yveG: 詳細な機能は未知)の挿入によって制御時の発現量が増加する事を示した。また、結晶構造を元に選んだTF-DNA結合に関わる残基を置換する事で更に応答性能を向上させた。
遺伝子論理回路のデザインにおいて、プラスミドバックボーンとホスト細胞種の組み合わせが回路の性能に関わる事を示し、これらを考慮に入れる事で最大12段階の論理ゲートを実装可能に。
結構な違いが出ていて驚き。
クロマチン制御因子(HP1, DNMT1)を標的とするナノボディをTetRと組み合わせることで、エピジェネティックな遺伝子発現制御システムを構築。DNMT1では約6割の細胞で制御誘導後の形質が記憶された他、標的以外のクロマチン制御因子(DNMT3A, KRAB)を組み合わせる事でDNMT1による発現制御速度および形質の記憶効率が向上した。
エピジェネティック工学も回路が組めるようになってきた。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
E.coliにおいて、他の細菌のrRNAを発現させて直行性の高い翻訳系を構築。E.coliと進化的に近い細菌のrRNAほど翻訳効率が高く、非翻訳領域ほど配列保存性が低かった事から、rRNAのプロセシング効率を向上させるために非翻訳領域をE.coliに置き換えると翻訳効率が向上した。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
無細胞発現系のPUREを用いて、Tu因子を除く全ての翻訳因子と20種類のアミノアシルtRNA合成酵素を単一のプラスミドから発現させた。
自作のPUREだとやはりバイアスが結構かかってしまうらしい。
BrvGを取り込むaaTSを無細胞系で発現させ、翻訳後の化学修飾によってアゾールを含むアミノ酸配列を高効率に生産することに成功。
Leu-tRNA合成酵素の変異体スクリーニングによってSM60(UV刺激でcitrullinationを起こすアミノ酸類自体)と結合し、尚且つアンバーコドンと対合するようなLeu-tRNAを合成する変異体を作成。これを用いてタンパク質に残基特異的にSM60を導入し、部位特異的citrullinationを可能にした。
Citrullination自体も初めて知ったけど、aaRSの変異で部位特異的に翻訳後修飾を入れられるって凄いな。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
タンデム化したtetOのDNAスポンジと相分離ドロップレットを形成するFUS(orDDX4, hnRNPA1)をTetR-VP16に繋げたものを使い、相分離による転写活性の向上を実現。更に、CRY2-CIBNシステムによって青色光誘導型の相分離ドロップレット形成&転写活性化システムを構築。
相分離による転写活性化で、青色光なのに生体マウスの組織深部での転写発現制御が出来ていて強力。相分離の合成生物学はこれから色々出て来そう。
  • Rational Design of a Split Flavin-Based Fluorescent Reporter
  • Authors: Yudenko, Anna; Smolentseva, Anastasia; Maslov, Ivan; Semenov, Oleg; Goncharov, Ivan M; Nazarenko, Vera V; Maliar, Nina L; Borshchevskiy, Valentin; Gordeliy, Valentin; Remeeva, Alina; Gushchin, Ivan
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00454
  • Institution: Moscow Institute of Physics and Technology, Russia
種々のLOVドメインのアラインメントから、進化的保存度の低いループ領域を検出し、検出部位でLOVドメインを分割したsplit蛍光タンパクを作成。
理論的なタンパク質デザインをしていて、非常に良い論文。
青色光誘導型リプレッサー(EL222)の発現抑制でdCpf1と代謝関連クラスターの発現抑制を行い、dCpf1によって代謝経路上流の酵素の発現を抑制する事で、下流の物質の産生量を増加させた。
Fig3は青色光照射無しとの比較がないとコントロールが取れていない気がする。
青色発光タンパク(Nluc)と青色光誘導性のTF(GAVPO: Gal4-VVD-p65)を繋ぎ、BRETによる遺伝子発現誘導を実装。他の小分子誘導型のTFに比べて応答性が高く、マウスにおけるインスリン産生をパルス状に誘導出来た。
何故わざわざBRETなのかと思ったら、意外な性能だった。

Protein Engineering

タンパク質工学
  • Bottom-up de novo design of functional proteins with complex structural features
  • Authors: Yang, Che and Sesterhenn, Fabian and Bonet, Jaume and van Aalen, Eva A and Scheller, Leo and Abriata, Luciano A and Cramer, Johannes T and Wen, Xiaolin and Rosset, St{\'e}phane and Georgeon, Sandrine and Jardetzky, Theodore and Krey, Thomas and Fussenegger, Martin and Merkx, Maarten and Correia, Bruno E
  • Journal: Nature Chemical Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41589-020-00699-x. (École Polytechnique Fédérale de Lausann
  • Institution: École Polytechnique Fédérale de Lausanne (EPFL), Switzerland
タンパク質結合モチーフの周囲に二次構造の組み合わせをデザインし、物理化学的性質及び構造を評価。作成した結合タンパクを使用してBRETセンサー、シグナル受容体タンパクを実装。
タンパク質デザインあるある: こんな簡単に出来たら苦労しない。
プロテアーゼのデザイン&選別を行う手法(YESS: 細胞表面への標的基質の露出、露出したタンパクへのエピトープタグ、FACSの組み合わせ)の改良版(基質を変えるクローニングを簡単にした&プロテアーゼの発現量を調節可能にした)を用いて、TEVプロテアーゼの活性を向上させる事に成功。
  • Direct control of CAR T cells through small molecule-regulated antibodies
  • Authors: Park, Spencer; Pascua, Edward; Lindquist, Kevin C; Kimberlin, Christopher; Deng, Xiaodi; Mak, Yvonne S L; Melton, Zea; Johnson, Theodore O; Lin, Regina; Boldajipour, Bijan; Abraham, Robert T; Pons, Jaume; Sasu, Barbra Johnson; Van Blarcom, Thomas J; Chaparro-Riggers, Javier
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41467-020-20671-6
  • Institution: Pfizer, USA
抗原認識部位のランダムな組み合わせライブラリから、薬剤(MTX: methotrexate)と標的(CD33, EGFR)の両方に特異性を持つ抗体を設計。薬剤投与によってCAR T細胞の活性を制御可能に。

CRISPR/Cas

クリスパー系
SpyCas9のPAM配列の嗜好性について、抑制と活性の両方で選別をかけるようなdirected evolutionによる制御性能の向上を行った。進化後のライブラリを解析すると嗜好性が拡張している事が明らかとなった。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
  • A new-to-nature carboxylation module to improve natural and synthetic CO 2 fixation
  • Authors: Scheffen, Marieke and Marchal, Daniel G and Beneyton, Thomas and Schuller, Sandra K and Klose, Melanie and Diehl, Christoph and Lehmann, Jessica and Pfister, Pascal and Carrillo, Martina and He, Hai and Aslan, Selcuk and Cortina, Nina S and Claus, Peter and Bollschweiler, Daniel and Baret, Jean-Christophe and Schuller, Jan M and Zarzycki, Jan and Bar-Even, Arren and Erb, Tobias J
  • Journal: Nature Catalysis
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41929-020-00557-y
  • Institution: Max Planck Institute for Terrestrial Microbiology, Germany
炭素同化経路として提案されたTaCO経路において必須となる酵素glycolyl-CoA carboxylaseを作成し、vitroで再構成した系で炭素固定能を実証。
酵素活性部位の予測から炭素固定能の計算まで行っていて良い。
K. rhaeticusによるセルロース産生の基質であるグルコース/フルクトースの環境中濃度を、共生する酵母(S. cerevisiae)の遺伝子回路で制御されるinvertase(スクロース加水分解)分泌とスクロース濃度で制御可能に。また、invertaseの発現をTFの制御下に置く事で薬剤(estradiol誘導型TF)や光(CRY2-CIBN)によるセルロース繊維の産生誘導も可能。
共生系の経路の開発は生育/誘導条件の最適化が中々難しそうだが、数理的なデザインはどの程度出来るのかな。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
電気刺激で誘導されるプラスミドコピー数の変化によってCRISPR配列の種類とリピート数をコントロールする方法で、情報を生きたE.coliゲノムに書き込む方法を提案。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
dCas9と人工TF(VPR)を使った転写制御機構を(filamentous fungi)で実装。これを使って、WTでは転写が起こらない(macrophorin)の遺伝子クラスターを発現させた。
コロニー形成をし辛く細菌密度が低いために、古典的な遺伝子工学が難しい鉄酸化細菌であるM. ferrooxydansにおいて、E. coliとの共生を介した形質転換を可能にした。

Viral Engineering

ファージ関連
既存のP2ファージの産生手法においてヘルパーファージのコンタミが生じてしまう問題を、P4ファージの発現制御因子(δ, ε遺伝子)を導入してP2ファージ自身がヘルパーとして働けるように改良して解決。
  • Characterizing the portability of phage-encoded homologous recombination proteins
  • Authors: Filsinger, Gabriel T; Wannier, Timothy M; Pedersen, Felix B; Lutz, Isaac D; Zhang, Julie; Stork, Devon A; Debnath, Anik; Gozzi, Kevin; Kuchwara, Helene; Volf, Verena; Wang, Stan; Rios, Xavier; Gregg, Christopher J; Lajoie, Marc J; Shipman, Seth L; Aach, John; Laub, Michael T; Church, George M
  • Journal: Nature Chemical Biology
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41589-020-00710-5
  • Institution: Harvard University, USA
ファージ由来のSSAP(single-stranded DNA annealing protein)によるゲノム編集能がホストの生物種によって大きく異なる原因が、ホスト細胞側のSSB(single-stranded DNA binding protein)とSSAPとの特異的な相互作用にある事を突き止め、相互作用をするSSBを同時に発現させる事で異なる細菌種でも組み換え効率を向上させた。
古典的なバイオっぽい解析と合成生物学的な応用が両方あって良い。
  • aeruginosa synthetic phages with reduced genomes
  • Authors: Pires, Diana P; Monteiro, Rodrigo; Mil-Homens, Dalila; Fialho, Arsénio; Lu, Timothy K; Azeredo, Joana. Designing P
  • Journal: Scientific Reports
  • Year: 2021
  • DOI: 10.1038/s41598-021-81580-2
  • Institution: Universidade Do Minho, Portugal
P. aeruginosaから単離されたバクテリオファージのゲノムから、12の偽遺伝子を取り除いてゲノムを削減した。感染効率などに差は生じたものの、抗菌性は保つ事ができた。
ウイルスぐらいのゲノムサイズなら予測で同じような事が出来たりしないだろうか。

合成生物学論文メモ (Dec 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
19報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
S.cerevisiaeとP.pastorisとでターミネーターのライブラリを作成して、ターミネーターを用いた発現量調節を実装し、代謝産物の生産量調節などへも応用できる事を示した。(Yeast: S.cerevisiae, P.pastoris)
古典的な振動回路の一部(lacI)をdCas9に置き換えたものを実装。発現量の調節はDNAspongeを介して行なった。(Bacteria: E.coli)
位相の性質を実験で調べているのが面白い。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
大規模なメタゲノムデータから、遺伝子間領域(intergenic region)において二次構造を取るような配列を検索し、sugE遺伝子の制御に関わる新たなリボスイッチ7種を同定し、実験的に制御能力を実証。(Bacteria: S.aureus)
まだこの方法でも良い感じにリボスイッチが見つかるのね。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
現存のルシフェラーゼ53種のアミノ酸配列から作成した系統樹の分岐点におけるアミノ酸配列を最尤推定し、作成した遺伝子をE.coliで発現、タンパク質精製を行うことでかつて存在した可能性のあるルシフェラーゼ7種類を作成した。(Bacteria: E.coli)
ものすごく格好いい研究。
E.coliバイオフィルムを構成するタンパク質ドメイン(CsgA)とミネラル化因子(Mfp3S: mussel foot protein)のキメラタンパク質を青色光応答性のプロモーター(YF1/FixJシステム)下で発現させ、光応答性のバイオフィルム形成システムを構築。光強度によるバイオフィルムの厚さ調節や、バイオフィルムによる環境中の基質の捕捉、欠損部分の修復などが可能。(Bacteria: E.coli)
光強度と厚さで相関が取れているのが凄い。
青色光応答性の二量体化ツール(EL222)、アクティベーター(VP16)、TF(Gal4, Gal80)とを組み合わせて青色光応答性の転写OFF回路を新たに設計し、酵母代謝産物の合成量調節に応用。(Yeast: S.cerevisiae)
既存のTFツールとの比較を行なっているところが好感度高い。
近赤外光に応答してnanobodyとのヘテロ二量体を形成するタンパク質(BphP)を大量(10^9)のnanobodyライブラリを加えたphage displayによって選別&最適化した上で、yeast two-hybridで最適なnanobodyを同定し、近赤外光応答性のヘテロ二量体化ツールを作成。(Yeast: S.cerevisiae, Mammalian cells: HEK293T)
近赤外光ツールの新作。nanobodyを使って、NIR-light受容体の応答の弱さをカバーしていて、細胞内在性のリガンド(bilverdin)のみで十分な応答が得られているのが強み。ただ、nanobodyを使っているので観察しようと思うと結局別の蛍光タンパクが必要。

Protein Engineering

タンパク質工学
  • Self-assembly–based posttranslational protein oscillators
  • Authors: Ofer Kimchi, Carl P. Goodrich, Alexis Courbet, Agnese I. Curatolo, Nicholas B. Woodall, David Baker, Michael P. Brenner
  • Journal: Science Advances
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1126/sciadv.abc1939
  • Institution: Harvard University, University of Washington Seatle, USA
リン酸化の有無によって多量体を形成するキナーゼとホスファターゼを用いて、リン酸化状態の振動回路を作成。
二因子の振動が出来たから次は三因子かな。
  • In Vivo Biogenesis of a De Novo Designed Iron−Sulfur Protein
  • Authors: Bhanu P. Jagilinki, Stefan Ilic, Cristian Trncik, Alexei M. Tyryshkin, Douglas H. Pike, Wolfgang Lubitz, Eckhard Bill, Oliver Einsle, James A. Birrell, Barak Akabayov, Dror Noy, Vikas Nanda
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00514
  • Institution: Rutgers University, USA
鉄イオンとの結合によって多量体化するタンパク質を細胞内で多量体形成が起こるように構造を元にした最適化を行った後、作成&抽出したオリゴマーの生化学的特徴を調査し、結果を元に多量体化に必要な最小単位を同定した。(Bacteria: E.coli)
最小単位の同定まで行なっていて、まとまりのある綺麗な論文。

CRISPR/Cas

クリスパー系
dCas12aによるCRISPRiと、連結したSoxSによる下流遺伝子の活性化を実装し、導入するgRNAの種類によってどちらの機能を使うかを制御可能に。(Bacteria: E.coli, P.polymyxa)
回路素子としての使い所が割とありそう。
ターゲット遺伝子の下流に逆向きに配置したT7プロモーターからT7pol-deaminaseによるランダムな一塩基置換を引き起こし、dCas9の物理的なブロッキングで変異箇所を遺伝子の一部に限定した。
in vivoで部位特異的&部分的なランダム変異が入れられるのが強み。デアミナーゼのバリエーションや変異の偏りに改善の余地ありといった感じ。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
酵母のTCA回路の代謝関連酵素をノックダウンや過剰発現させてチューニングする事で、アセチルCoAとNADPHを下流の産物(3-OH-Propionic Acid)産生のために確保する事に成功。(Yeast: S.cerevisiae)
二種類の酵素(Sm3'H: flavonoid hydroxylase, SmCPR: cytochrome P450 reductase)が関わる代謝経路において、酵素の発現量比を強度の異なるプロモーターの組み合わせライブラリを作成して調節した後、directed evolutionで最適化を行なった。(Yeast: S.cerevisiae)

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
βシートと芳香族側鎖の凝集による自己組織化能を持つsuckerin-12に対して、非天然アミノ酸(Gly32->pAzF)を導入して自己組織化効率を向上させた他、生化学的特徴(pH, 塩濃度, タンパク質濃度依存性)を調査した。(in vitro)

Biochemistry

生化学系

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
dCas9とそのgRNAに結合するMS2-VP64によって転写を活性化させるシステムを酵母株P.pastorisで実装。チミン条件下で転写が抑制されるプロモーターを強発現させて抑制解除する事が可能に。(Yeast: P.pastoris)
P.pastorisはメタノール代謝系で強いらしい、ターミネーターの論文でも使われていた株。
シアノバクテリアでdCas9の干渉を利用したNANDゲートを構成し、gRNAを暗条件応答性のプロモーター(purF)下流で発現させて、暗条件応答性の回路を作成。(Bacteria: S.elongatus PCC7942)
シアノバクテリアだとこういう光応答性の使い方が出来るところのは面白い。
  • Automating Cloning by Natural Transformation
  • Authors: Xinglin Jiang, Emilia Palazzotto, Ewa Wybraniec, Lachlan Jake Munro, Haibo Zhang, Douglas B. Kell, Tilmann Weber, Sang Yup Lee
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00240
  • Institution: Technical University of Denmark, Denmark
A.baylyiが特定の配列を持つ直鎖状DNAを取り込む際に環状化させる性質を利用して、ハイスループットな形質転換が可能なプラットフォームを作成。(Bacteria: A.baylyi)
既存の形質転換手法を置き換えるほどのメリットは無さそうだけど、この技術を元に何かは出来そう。

細菌に出来事の数え方を教えるお話

Advent Calender「今年読んだ一番好きな論文2020」の記事です。

adventar.org

3行で紹介

2020年9月にNature Communicationsに出たこちらの論文を紹介します。
細菌の群れが出来事の種類と回数を記憶出来る仕組みを、人工的に効率よく作れるようにしましたというお話です。出来事の種類と回数に応じてDNAが書き換えられるようなシステムを構築し、遺伝子から発現する蛍光タンパク質の色を変えています。

www.nature.com

生物の仕組みをつくる研究の流れ

僕が専門にしている合成生物学は、2000年の年明けにNatureに並べて出版された2本の論文*1*2によって興盛を見せ始めた分野で、生物の仕組みを人工的につくる事を主目的としています*3。2010年以降は分野も大きく広がり、つくった仕組みを応用する事、つくった仕組みを使って別の仕組みを明らかにする事も大きな目的となっています*4
今回の紹介論文は、仕組みをつくる流れの研究の一つで、細菌の遺伝情報の中に論理演算の仕組みを組み込んで、ヒトがデザインした通りに出来事を数えさせようというものです。

数を数えさせる仕組み

細菌に数を数えさせる仕組みの鍵となるのは、インテグラーゼ(integrase)と呼ばれる酵素です。この酵素は、DNA上の2種類のマーカー配列(attB, attP)を認識して、そのマーカーの方向によってDNAに2つの異なった作用を不可逆的に施します。

  • マーカーが向き合っている場合: 間のDNAを反転させる(画像左側の反応)
  • マーカーが同一方向の場合: 間のDNAを切り取る(画像右側の反応)

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Figure 1b. インテグラーゼのはたらき
DNAマーカーが向き合っていれば反転、同一方向なら切り出しが起こる。

このようなインテグラーゼを2種類組み合わせると、aとbの2種類の出来事(薬剤等による刺激)の順番によって別々の挙動を示す回路が出来上がります。下図の太い矢印(0, 1, 2)はそれぞれの色の蛍光タンパク質がコードされた遺伝子を表していて、遺伝子は方向性をもつため特定の方向でコードされている場合のみ正常にはたらきます。下図の曲がった矢印は、プロモーターと呼ばれるDNA領域で、遺伝子が読み取られる方向を決定しています。なお、プロモーター自体は左右どちらの方向であっても正常に機能することが出来ます。出来事が起こる前(0の状態)では、青色のタンパク質が発現していて、出来事の種類によって2種類のインテグラーゼのどちらかがはたらき、先に述べたDNAの反転または切り出しが起こります。

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Figure 1d. 2種類の出来事を数える回路
a→bの順番なら、青色→赤色→緑色の順に発現する遺伝子が変化し、b→の順番なら、青色→無→無となる。
  • 出来事b(右側、オレンジ色の矢印)が起こった場合

オレンジ色のマーカーにインテグラーゼが働き、マーカーは同一方向のためDNAが切り出されます。正しい方向の蛍光タンパク質もまだ使われていない水色のマーカーも無くなってしまいます。

  • 出来事a(左側、水色の矢印)が起こった場合

水色のマーカーにインテグラーゼがはたらき、マーカーが向き合っているのでDNAが反転します。結果として、青色のタンパク質は方向が逆になってしまって機能を失い、代わりに正しい方向になった赤色のタンパク質が発現します。また、オレンジ色のマーカーが向き合うため、引き続いて出来事bが起こると、オレンジ色のマーカーの間でDNAの反転が起こり、プロモーターが逆向きになります。これによって遺伝子の読み取り方向がプロモーターから左側に進ようになるため、緑色のタンパク質が代わりに発現するようになります。

このようにして、細菌が出来事の数と順番を数え、それに応じて異なる遺伝子を発現させる仕組みが出来上がりました。ちなみに、ここまでの研究は2013年に発表されたもの*5の追試です。

より複雑な出来事の数え方

前節までの話は、すでに先行研究で発表されていた内容でした。紹介論文では、細菌がより複雑な出来事も正確に数えられるように仕組みを発展させ、また、出来事の順番を好きなように入れ替えても上手くはたらくようにデザインの効率化を行いました。

その1: 複数の細菌株に分ける

複雑化のその1では、それまで一種類の細菌株で行なっていた演算を複数の株に分けるシステムを実装しました。このシステムの主目的は、演算がより複雑になった場合に、一つの細菌では演算が処理仕切れなくなってしまう事態(具体的には、遺伝子の発現量の限界や導入する遺伝子の合計サイズの限界)を防ぐ事や、出力部分でより複雑な反応をさせたい場合に、反応同士が混み合ってしまう事態を防ぐ事などにあります。
拡張したシステムの生物学的な実装の方法としては、一種類の細菌が保持していた遺伝子を複数の細菌に分けてあげました。例として下図3cを見てみると、青色と緑色蛍光タンパク質の部分を2SP8株に、赤色蛍光タンパク質の部分を2SP5株に分配しています。

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Figure 3c. 演算を2種類の細菌株に分配するシステムの例

その2: 数えられる出来事の種類を増やす

複雑化のその2では、数えられる出来事の種類を増やして演算の自由度を上げました。これによって、現実的に演算を複雑化させる事が可能になります。
以下の図4cには、3種類の出来事を数えられる細菌の例が示されています。この例では、出来事がc→b→aの順番で起こった場合のみ蛍光タンパク質の色の変化が見られます。

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Figure 4c. 3種類の出来事を数える細菌の例

複雑な系の実装

複雑化のその1とその2を組み合わせて出来たシステムの様子と結果(棒グラフ)が以下の図6に示されています。aに示されている細菌株の組み合わせによって、出来事の数え方が異なっている様子がbとcとで比較されています。

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Fig6. 複雑な系の実装

まとめ

仕組みの実装をするという事を結構簡単に書いてしまいましたが、実際の実験では予期しないところで蛍光タンパク質が発現してしまったり(図6cでは少し残っている)、発現しているはずの蛍光タンパク質が見られなかったりする事が多々(多々)あるので、結構泥臭い最適化が必要だったりします。省略しましたが図で示されている回路のデザインは筆者らが主張する効率の良い最適化スキームで作られていて、この仕組みを応用に使う研究者や企業が他のインテグラーゼや細菌で検証を行う事が期待されます。
今回の話を面白いと思った方は是非↓の論文やレビューも参照してみてください。

*1:2000年の論文その1: スイッチの仕組みを作った話

*2:2000年の論文その2: 振動回路を作った話

*3:2013年頃までの合成生物学研究の流れについてのReview

*4:2010年以降の合成生物学の広がりについてのReview

*5:先行研究: 細菌に記憶させる話

合成生物学論文メモ (Nov 2020)

読み流した論文のメモ。黒色はメモ、緑色は感想、赤色は特に面白いと思ったもの。
28報

Synthetic Biology

Transcription/Translation Control

遺伝子回路、転写翻訳制御など
QS(LasR, LuxR)ベースの相互抑制系(TetR, LuxI)を構成し、回路の双安定性を確認。ろ紙上に区切られた領域で、誘導因子の空間的な勾配をかけながら細胞を培養し、モルフォゲン勾配による初期発生における遺伝子発現制御が、二種類の遺伝子/誘導体だけで再構成出来る事を定量的に実証。(Bacteria: E.coli)
応用へのアプローチの仕方が良い。
細胞内mRNAを分解するエンドリボヌクレアーゼ(CasE)によって、リコンビナント回路を細胞内資源競争から分離するfeedforward回路を作成し、複数の哺乳類細胞株、プロモーターで定量的な効果を実証。(Mammalian cells: HEK293, HeLa, CHO, Vero)
Zhao labと同じmRNA分解による細胞内資源再分配だが、使用している回路の構成が違って面白い。こっちの方が数理モデルからの厳密な定量がされているっぽい?
E.coli(σ70)とB.subtilis(σB, σF, σW)のσファクター依存性プロモーターの配列-発現量ライブラリをランダム配列&FACSで取得し、CNNベースの配列-発現量予測器を作成。(Bacteria: E.coli)
酵母プロモーター予測器のE.coli版。
遺伝子上流のUTR(leader sequence)を編集する事で、8種類の発現レベルを下流CDSの影響を比較的受けずに実現し、強度の異なる3種類のプロモーターと組み合わせることで発現強度比0.001から1までの合計24種類の遺伝子カセットを開発。これを代謝経路の流量制御に応用して実用性を示した。(Bacteria: E.coli)
UTRの編集はアイデアとして他にもありそうだけど、どうだろう
TFベースの遺伝子回路において、一般的なHill式では回路の動態(特にbasal activityとsaturation)を表現し切れない事を示し、Hill式のリガンド濃度部分([Ligand]^nのところ)に活性化項を加えて拡張した。16種類の異なる回路について、ある程度のfitting精度を実証。(Bacteria: E.coli)
fitting出来ているものはあるけど、出来ていないものもちらほら。汎用モデルを立てるのはなかなか難しそう。
3種類の二量体化システム(cohesin-dockerinシステム、ロイシンジッパー、SunTagシステム)とVP16活性化因子を組み合わせたTF論理回路を哺乳類細胞で実装。(Mammalia cells: HEK293T, hMSC-TERT)
人工TFの作り方論文が哺乳類細胞まで来た。
TFの結合部位(オペレータやプロモータ)を過剰に設置すると、遺伝子回路のleaky発現を抑えられる事や、回路の出力のノイズが大幅に減少する事を発見。(Bacteria: E.coli)
何で今まで誰もやらなかったのかが疑問なレベルのシンプルな発想ながら、強力な結果。

RNA Synthetic Biology

アプタマー、リボザイムなど
mRNAのポリAシグナル修飾を立体的阻害するようなriboswitch(アプタマー)を遺伝子の3'UTRに付加する事で、リガンド存在下でポリAシグナルが二次構造のステムに閉じ込められ、翻訳が抑制される機構を開発。さらにmiRNAを導入してスイッチ性能を向上。(Mammalian cells: HeLa)
ポリAシグナルの阻害とはその手があったか。3'UTRのリボスイッチの可能性も広げる。

Cell-free / Reconstruction

無細胞系、再構成など
cell-freeでのタンパク質発現系をマイクロ流路で区切られたハイドロゲル(alginate)内部の環境に最適化(高T7-RNApol濃度、低プラスミド濃度、)し、低コストで効率よく発現できる系を実装。(bacterial cell-free)
ファージのcI、croタンパクによる双安定系回路を、キャピラリーで区切られた空間でcell-free発現させ、遺伝子量や温度による定常状態の遷移を実現。(bacterial cell-free)
キャピラリーで区切っただけで膜のない空間をartificial cellと呼ぶのかは疑問。
細胞生育とタンパク質発現を分離する手法を応用して、非天然アミノ酸を含むタンパク質発現量を飛躍的に向上。(Bacteria: E.coli)
非天然アミノ酸もいよいよ現実的なタンパク質デザインが出て来そう。

Optogenetics

光駆動型ツール、蛍光イメージング、光受容体など、その他〇〇genetics系
  • Optogenetic Control of the BMP Signaling Pathway
  • Authors: P.A. Humphreys, S. Woods, C.A. Smith, N. Bates, S.A. Cain, R. Lucas & S.J. Kimber
  • Journal: ACS Synthetic Biology
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1021/acssynbio.0c00315
  • Institution: The University of Manchester, UK
二量体形成を行うLOVドメインにBMPR1BとBMPR2を結合させたopto-BMPを作成し、青色光誘導型のBMPシグナル制御を実現。(Mammalian cells: HEK293T, TC28a2, hESCs)
characterization(fig2)が丁寧で良い。
タグ(STEPtag)を付けたタンパク質の発現量を高速で蛍光観察可能なバイオセンサー(Kd 120 nM, kon 1.7 × 105 M−1 s−1)を作成。
リアルタイム観察が出来るような応答の速さがポイント高いらしい。

Protein Engineering

タンパク質工学
トリプトファン合成酵素をターゲットに、現実的な時間内(1ヶ月程度)の研究室内進化で酵素のorthologを複数得られる事を実証。連続的なdirected evolutionが可能なOrthoRepのプラットフォームを使用。(Yeast: S.cerevisiae)
eVOLVERでやったらもっと簡単に実現できそう。continuous directed evolutionやりたい。
立体構造が明らかなタンパク質の各残基周辺の原子情報(C, N, O, P, H)と環境情報(電荷、溶媒)を3D CNNにかけて、周辺情報から各残基の予測を行う事で、各残基の変異耐性を予測するモデルを構築した(予測精度が高ければ、その残基が周辺情報と蜜に関連しているという仮説)。3種類のタンパク質(secBFP2.1, phosphomannose isomerase, TEM-1 β-lactamase )対して予測を行い、得られたスコアごとにsaturation mutagenesisをかけると、変異耐性スコアの低かった残基において、より多くの機能獲得性変異が起こる事が実証された。(Bacteria: E.coli)
周辺情報からの残基の予測でそんなに上手く行くとは、モデルの訓練で機能に関しての情報は与えていないけど。

Metabolic/Signal Pathway Engineering

シグナル経路、代謝経路、酵素工学など
重炭素ラベルしたメタノール栄養培地によって天然のS.cerevisiaeがメタノール同化能を持つことを発見し、メタノール培地における約20日間の研究室内進化によってメタノール同化経路を改善。(Yeasts: S.cerevisiae)
E.coliゲノムスケールでの代謝経路モデリングから、熱力学的な反応の進みやすさの評価によって候補経路(Gnd-Entner-Doudroff cycle)を同定し、E.coli内の内在酵素のみを使用した炭素固定回路を作成。(Bacteria: E.coli)
タイトルがかっこいい、内容もタイトルに劣らずかっこいい。
E.coliのwhole-cell catalystにおけるアセトアルデヒドからのアセトン産生と、アセトンからligustrazine(医薬、食品で使われるアルカロイド)への化学合成を組み合わせた効率の良いligustrazine産生法を確立。(Bacteria: E.coli)
目的の代謝gene cluster探索の為に、既知の代謝gene cluster(NpHphB/CD/A)をBLASTにかけて候補を抽出した後、既知の代謝gene clusterの近傍にあることが知られている遺伝子群(NRPS: nonribosomal protein synthetase)の情報を元に、近傍遺伝子が多いものを最終的な候補として選択。その後、wetで候補のクラスターを評価。(Bacteria: E.coli)
代謝工学もin silicoで色々出てきて面白い。
RNAシーケンス結果からのオミクス解析と、S.cerevisiaeでのハイスループットスクリーニングにより、pinocembrin誘導体を作成する複数の酵素を同定。(Yeasts: S.cerevisiae)
こちらもin silicoでのRNA-seqデータのマイニング。

DNA / Biophysics

DNA、核酸論理回路、ナノスケール構造物など
DNAを用いた物理的暗号を実用化するものとして、DNA配列をデザインし、nanoporeを使って読み取る機構を開発。バーコード配列部分を研究室内進化によって、nanoporeで読み取った際の分散が大きくなるような(識別しやすくなるような)傾斜をかけた。(in vitro)
バーコード配列を進化させるという発想が初耳で面白かった。
64塩基長のランダムDNA配列生成において、合成バイアス(1. G(30-35%),T(25-30%)の出現確率がA,C(~20%)よりも高い。2. A,Cは座標に関わらず比較的一定の出現確率を持つが、Gは3'側ほど出現確率が低く(35%->30%)、Tは3'側ほど高い(25%->30%)。3. 2merについても出現確率が他の2merよりも顕著に高いor低いものがみつかった。)を定量的に解析。DNAを用いたランダム暗号生成技術への橋渡しとして、合成バイアスを取り除いて圧縮する(von Neumann algorithm)事を提案。(in vitro)
思ったよりバイアス大きくて驚き。
  • Complex multicomponent patterns rendered on a 3D DNA-barrel pegboard
  • Authors: S.F.J. Wickham, A. Auer, J. Min, N. Ponnuswamy, J.B. Woehrstein, F. Schueder, M.T. Strauss, J. Schnitzbauer, B. Nathwani, Z. Zhao, S.D. Perrault, J. Hahn, S. Lee, M.M. Bastings, S.W. Helmig, A.L. Kodal, P. Yin, R. Jungmann & W.M. Shih
  • Journal: Nature Communications
  • Year: 2020
  • DOI: 10.1038/s41467-020-18910-x
  • Institution: Harvard University, USA
100MDaまで拡張が可能なDNA折り紙による規則的なバレル構造を構築。(in vitro)
でかい、すごい。
非天然の核酸であるTNA(α-L-threofuranosyl nucleic acid)をDNAの代わりにして、情報を保存する媒体として利用可能に。
非天然核酸だから酵素の分解なんかにも強いということらしい。

Alternative Hosts / Strain Engineering

宿主や系統株の開発
活性酸素群の細胞毒性に着目し、NADPH酸化経路阻害株を作成。オキシゲナーゼ活性を持つような変異酵素(応用例としてBM3)をシンプルなdirected evolutionによって得られる事を実証。(Bacteria: E.coli)
directed evolutionのために株ごと作るという発想の転換。株そのものの汎用性は低いけど、アイデアは他に活かせそう。

Bioinformatics

マイクロ流路中の液滴でdirected evolutionを回しながら、Nanoporeシーケンシングを行えるようにDNAバーコードを仕込んだカセットをデザインし、大規模なシーケンシングを可能にし、デアミナーゼの進化で実証した。
デミナーゼの進化についてデータベースも公開されているので、in silicoツール制作に使える。